野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

Arts on the Lake Biwa/東近江にベトナムが見えたGacha Gong Band

『Arts on the Lake Biwa』という展覧会を観た。びわ湖大津館で「滋賀県次世代文化賞」の歴代の受賞者から8名の作家の展覧会が行われていた。場所は、旧琵琶湖ホテルで、ホテルの1室を1作家の作品展と割り振るもの。過去の受賞者8名を紹介するオムニバスの展覧会で、展覧会全体で何か特にテーマが設定されてはいない(ように見えた)。ホテルの各部屋は、あまり広くないので、大きい作品は展示しにくいのと、照明が充実していないので、窓を開けて外光を活かすかどうかは悩ましいところで、窓を開けると琵琶湖が借景として見えてくる。西川礼華さんの作品は、この環境を意識して作られた新作のようで、昨年滋賀県立美術館で拝見した作品とも全く違った印象の作品だったが、印象に残った。岡本里栄さんは、手だったり、足だったり、体のパーツがテーマになりながら、それが別々の絵画としてバラバラに提示され、時には身体の抜け殻のような服が描かれる。描かれていない不在の身体は、鑑賞者の想像に委ねられる(この方、以前HAPSでお会いした相撲が大好きなアーティストかな?相撲への関心と身体への関心は、どこかでつながっているのかも、と勝手に想像する)。木に色を染み込ませるプリントをされる藤永覚耶さんは、ご自身が会場におられたので、作品の解説を作家から直接聞くことができた。本人のガイドがあると、やはり作品への理解が深まり、面白さへのアクセスがしやすくなる。しかし、展覧会の会期中、ずっと作家が会場にいるわけにもいかないので、ハンドアウトなど、いろいろな方法で、少しでも補えるといいのだろう、と思う。アーティストの作品の魅力は、感性に訴えかけてくる感覚的な部分は非常に大きいのだが、同時に、創作の背景にあるアーティストの思想/哲学といった観念的な部分を理解することも大きい。感覚的に感じるために、アートに説明は要らないというのも一理ある。と同時に、観念的/論理的に理解する上で、アートに説明は必要であるというのにも一理ある。8人の作家の作品を感覚的に味わい感銘を受けたと同時に、ハンドアウトに書かれた短い説明文だけでは辿り着けなかった創作の背景にある思考を、もっと理解したいとも思った。こうした鑑賞へのガイドをどのように展開していくかについては、自分自身のこと、自分が企画者になる時のことでも、大きな課題であるので、考えるヒントをいただく。

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午後、金壽堂へ。ガチャ・コン音楽祭Vol.2 ツアーライブ『あかねさす ゴングとバカの ひらく音』に向けて、柳沢英輔さんの企画《Ma Chay》のリハーサル。今回、結成されたGacha Gong Bandの16名が集まり、この集まったメンバーが相当面白い。打楽器を専攻する大学生、民族楽器店の方、ガムラングループの方(小学生もいる)、人類学を研究する大学院生、デザイナー、、、。このメンバーが出会っていること自体が奇跡のようでもある。金壽堂の片山さんから金壽堂の説明を聞いて、工場見学をするだけでも感動的。かつて、ここで梵鐘づくりが行われていたのだ。そして、初めて出会ったメンバーがベトナム少数民族のゴングを手に持ち、初めて習う楽曲を練習し、徐々に音楽が身体化され、歩きながら演奏できるようになる。今日の練習は、金壽堂の屋内で反響が大きいが、本番は竹田神社の野外。そこで、野外での響きを体験すべく、金壽堂前の田んぼの畦道で演奏してみた。本来、ベトナムでも野外で演奏される音楽で、これが東近江の風景で演奏されたら、ベトナム中部高原の景色と合体したかの錯覚に陥る感動的な時間となった。鳥の鳴き声も、虫の鳴き声も共演する。柳沢さんにはベトナムが見えたそうだ。ベトナムのゴングが、1300年の鋳物の歴史ある長(おさ)で鳴り響いた。10月23日の本番では鋳物師町にある竹田神社の境内、近くの森、朝日野駅朝日野駅から竹田神社に向かう道のそばにある田んぼなどがベトナムになるに違いない。その確信が持てる野外演奏だった。往来の音楽。能舞台は、この世とあの世を行き来する場だ。10月23日の竹田神社では、日常と非日常を行き来するだろう。ベトナムの伝統曲と、自由な即興を行き来するだろう。古代の音(雅楽、万葉和歌)と現代の音が行き来するだろう。「みんぐる」とは、そうした行き来することなのかもしれない。そうした予感をさせる濃密な素晴らしい時間だった。地元住民で地域コーディネーターの黄地さんが、この光景を見ながら思い出したかつて長村にあった出来事を語ってくれたそうだ(コーディネーターの野田さん、永尾さんによると)。野田さん、永尾さんは、来週には、ヴァイオリニストの山本啓さんと、滋賀県のお寺を巡り、梵鐘の音を多数録音していくので、その相談をしている。昨日の「たたら節」、ベトナムのゴング、梵鐘。すごいことになってきた。10月23日のツアーライブは、すごいイベントになる確信を得た一日だった。心配なのは天候だなぁ。考えたくないけど、雨バージョンを考えておこう。

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