野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

踊れ!ベートーヴェン

26年前、20代の自分が作曲した曲のエネルギーに、吹っ飛ばされそうになり、刺激を受けまくった一日だった。と同時に、過去を踏襲するだけでなく、昔の作品を現在に蘇らせるべく、今の感覚でアップデートするリハーサルでもあった。

 

大阪府京都府の境目の標高400mほどの山の中に、ガムラングループ「マルガサリ」のスタジオがある。ガムランの楽器の音は大きく、思う存分鳴らすためには、近隣の苦情を受けない山奥の集落のはずれにある。元々は寒天工場だったが、地球温暖化で寒天工場に適さなくなって使われていなかったスペースを1998年に改装して使っている。

 

今日は、野村の伝説のガムラン作品《踊れ!ベートーヴェン》(1996)のリハーサル。9月11日に、京都市内では25年ぶりとなる再演がある。この作品は、ジャワ・ガムランの楽器を、ほぼ全て使うフル編成なので、最低15名ほどのガムラン奏者を必要とし、さらに、そこに子どもたちやスペシャルゲストが加わるので、今回も総勢40名くらいの大所帯になる。これだけ大変な作品なのに、1996年に丹後、京都、貝塚、神戸、ジャカルタ、バンドゥン、ジョグジャカルタスラカルタで上演し、1997年に京都で上演した。21世紀に入ってからは、2003年に滋賀(水口)、2004年に岐阜(大垣)で上演し、2014年に東京で再演されているが、若い世代の方々にとっては、幻の伝説の作品となっている。

 

www.kac.or.jp

 

この作品は、途中でゲストが乱入してくる場面があり、そのシーンは毎回、新しく作り変えることが楽譜で指定されているので、再演と言っても、始まりと終わりは同じなのだが、途中は毎回違ってくる。

 

高速で疾走する冒頭部分は、最初はリズムが噛み合わなかったが、何度も練習することで良くなってきた。子どもたちの自由奔放さと、瓶原の地域の人たちの日常と、折り合いのつかない要素が入り込んでくることが、この作品の特長。当時、多様性とかダイバーシティなんて言葉を誰も口にしていなかった時代、自分の作ろうとしている美学や美意識と、そこに違和感を生じさせる異質なものが出会うことで、自分の価値観や美意識を超えていこうと試行錯誤していた中から生まれてきた作品だ。当時、異質だと思った驚きの出会いも、今となっては古典。今回は今回で、何に驚きを感じられるのか、リハーサルで練り上げる作業は面白かった。

 

4時間以上に及ぶ濃密なリハーサル/再クリエーションの後、熊本に戻ると、注文していた『十五夜綱引の研究』が届いていて、南九州の綱引について、そこで行われる相撲について、深めていくのが楽しみになった。塔本シスコが描いた絵が発端だったが、ここから、新しいプロジェクトが始まろうとしている。

 

www.booktown.co.jp