野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

くすかき/200m想

里村さんの知り合いの五十嵐靖晃さんというアーティストが太宰府天満宮で何やら面白そうなことをやっているそうで、里村さんが行くというので、同行させてもらう。《くすかき》というプロジェクト。ブログに写真やエピソードが色々書かれている。

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太宰府天満宮宮司さんは、東大で美術史を学んだ方だそうで、宝物殿では、戦国武将との手紙のやりとりや刀などが展示されているだけでなく、現代美術などの展示もあり、企画展として菊畑茂久馬展も開催されていた。ぼくは徳島県立近代美術館で2005年に、菊畑茂久馬の作品を演奏するワークショップもやったし、2009年には福岡市美術館でも菊畑茂久馬の作品をワークショップを経てピアノ曲にしたりした。菊畑作品を一度にたくさん見られたのもとても良かったのだが、渡辺省亭の掛け軸がとてもセンスがよく、てっきり現代の作家なのだと思ってみたら1852年生まれで、びっくりした。非常にミニマルで淡いいい作品だった。

 

五十嵐さんの《くすかき》の掻き山(集められた落ち葉の山)が本殿の手前の天神広場の巨大な樟の木の下にあり、そこには五十嵐さんの詩のような言葉の看板が立っている。その後、山かげ亭という名の一軒家にお邪魔し、五十嵐さんと制作チームの方々と交流。五十嵐さんのつなぎ美術館でやった作品の記録集も見せていただき、こちらも面白そう。制作スタッフに愛知大学の卒業生の黒野瑞姫さんもいて、嬉しい再会。

 

帰り間際にプロジェクトマネージャーの米津いつかさんが到着され、里村さんとは日比野克彦さんの事務所繋がりなどで縁がある方で、すれ違いだけど一瞬お会いしようと太宰府駅の駅ピアノを弾きながら、ご挨拶。そして、参道にある梅園菓子処は《くすかき》とコラボしている面白い和菓子店で、ちょっとのつもりで顔を出すと、そこでも濃密な交流。

 

自宅に戻って、3月18日の公演《200m想》の振り返りの会。北九州と福岡での2地点公演で、それぞれの場で起こっていたことを改めて映像や写真で見返すと、共演しているのに、向こう側ではこんな風に見えていたんだー、という驚きの場面がいっぱい。2022年のテクノロジーの現在とパフォーミングアーツと社会包摂の現在とアーツマネジメントの現在が重なり合った今しかできなかった実験で、ここで一体何が起きていたのか、どういう意味や可能性があったのかは、今後少しずつ検証されていくのだろう。門限ズ、ボーイズ、九大のみなさん、おつかれさま&ありがとう。そして、いろいろな距離の隔たりを体感したし、同じ場にいることについて改めて思ったし、テクノロジーの便利な部分と不便な部分を痛感したし、共演している実感って何だろうと考えさせられたし、不確かな「今ここ」を共有している不思議な時空を生きたし、フィクションとリアルとバーチャルの間で色々感じたし考えた。本当に、本当に、大変だったけど、見たことのない光景に出会っていたんだなぁ。