野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

塔本シスコの絵の前でポーズをとる

熊本市現代美術館で、塔本シスコ展関連のイベント。塔本シスコさんのお孫さんである福迫弥麻さん、シスコの作品をこよなく愛する作家のいしいしんじさんによるトークが行われた。塔本シスコの作品とは、2006年の近江八幡でのグループ展で一緒になったことがあったが、その後、シスコの名前と再会することもなく15年の月日が流れた。昨年、里村真理さんが熊本県宇城市の不知火美術館で働くことになり、ぼくも引っ越すことになった。いよいよ関西を離れるという時に、滋賀県立美術館の保坂健二朗さんに引越しの話をすると、「そこって、塔本シスコの〜〜〜」と保坂さんが仰り、ぼくは塔本シスコにゆかりの土地に住み始めるのだ、と思った。

 

熊本での生活が始まると、いしいしんじさんが熊本市現代美術館での展覧会「こわいな!恐怖の美術館」に参加されるということで、内覧会にお邪魔すると、いしいさんが野村さんの音楽、塔本シスコの展覧会にあったらいいのでは、と再び「塔本シスコ」という名前が出現する。

 

塔本シスコは、熊本から大阪に移住していて、幼少時の記憶による熊本の風景と関西の風景がたくさん描かれている。滋賀県八日市文化会館とか水口芸術文化会館とかも描かれていて、昨年から何度も熊本と滋賀を往復しているぼくの前に、突然シスコが現れて、彼女の描く世界が自分の生活エリアとリンクする。不思議だ。

 

ちなみに、いしいさんの熊本での滞在制作作品は『100ものがたり』という小説になって、熊本の橙書店からリリースされ、この本の物語も熊本市内から水俣から阿蘇まで、熊本のあちこちを巡り、その光景の多くが熊本での日常とリンクしてくる。この小説のエンディング近くで、「くま」が身を削りながら「くろ」の夢を実現させようとする泣けるシーンがあるのだが、今日の二つ目のイベントで、蓄音機のころちゃんに奏でられるSP盤のレコードたちは、文字通り針で身を削られながら音を我々に届けてくれる。それは、『100ものがたり』の「くま」のことを想起する。

 

弥麻さん、いしいさんのトークを聞いて、もう一度、シスコ展を見たくなり、再びチケットを購入して入場。じっくり見ていって、あれ?と思い、やけに手をあげている人が多いな、と思う。夕方で観客も少なく広々としていたので、展示の中に描かれている人と同じポーズを全部の絵でやってみた。本当にバンザイ状態の人が多い。手をあげている人が多い。手を高々とあげながら絵を見ると、また気分が高揚する。とても楽しい体操のような絵画鑑賞になった。