野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

棲家ゲネプロ/立合いの稽古/ペトロフを鳴らせ/猛獣3匹/ウクライナを想う/渋谷慶一郎

きたまりダンス公演《棲家》(@京都芸術センター)も、いよいよ明日から本番。馬頭琴の嵯峨さんとは、2日前が初対面だったのに、旧知の親友のように阿吽の呼吸で演奏させていただいている。また共通の友人も多く、数多くのニアミスがあり、今まで出会っていなかったことが不思議だ。一緒に演奏するのが本当に楽しい。

 

場当たりが続き、全シーンの照明や段取りも確定して、いよいよゲネプロ。毎日、相撲の稽古をしているのに、ゲネプロをやってみると、立合いが難しい。相撲の場合、仕切りをしながら、徐々に気合を高めていって、合図はなく二人の力士のタイミングで立合いが成立する。わざと相手の間合いをずらしたり、駆け引きもある。この作品の中でも、立合いが何度もあるが、うまく立てれば自分の土俵で相撲がとれるので、自分の間合いで立合えるようにうまく仕切っていきたい。後の先かな。先の先かな。

 

京都芸術センターの100年前のピアノ、ペトロフは、音色が豊かだが、老体であることも確かで、しかも、コロナであまり弾き込まれていないようである。もう少し弾き込んでいった方が、楽器が蘇ってもっと鳴るようになるかも。現時点でのペトロフに満足していてはいけないので、明日は演奏することで楽器を少し目覚めさせられないか、空き時間を使って、あの手この手で楽器にマッサージを施してみようと思う。

 

ゲネプロは写真撮影や動画撮影も入って、関係者の方々も来られて、良い緊張感。ゲネが終わって、演出のきたまりさんから出演の3人に向かってのお言葉が凄かった。皆さんベテランなのに、健気に演出家の言いつけを守って大人すぎる。決め事を破れとは言わないが、もっと奔放にやってくれ、との仰せ。ふむふむ。作品の間合いじゃなくって、もっと野村節どうぞ、とのこと。太田省吾の戯曲を丁寧に読み込み、細かく作り込んでいくきたまりさんの姿に感銘を受け共感して、丁寧にやっていたつもりが、そういうことじゃないらしい。要するに、猛獣3匹をどう扱うか必死に演出してたのに、猛獣が良い子に飼い慣らされたら、猛獣を連れてきた意味がない、と言われているような気になった。猛獣3匹は、太田省吾の戯曲という鎖と、バッハの楽譜という鎖に括り付けられても、安心できるようでは猛獣じゃないんだ。ますます、由良部さんの猛獣っぷり、嵯峨さんの猛獣っぷりを体験するのが、楽しみになった(ちなみに、猛獣っていうのは、ぼくの比喩で、別に乱暴するっていう意味ではありません)。あっ、その前に、ぼくがぼくらしい猛獣でいないと、お話にならないので、バッハという鎖をどれだけ噛み砕けるかにかかっているんだなぁ。

 

20年以上前、放射能被曝したウクライナの子どもたちが転地療法で千葉に滞在していて、その子どもたちに音楽を体験してもらう、という企画で鍵盤ハーモニカの演奏を聴いてもらった。あの時の子どもたちは、今は大人になっていると思うし、あの1日だけ遭遇しただけだけど、どうしているだろう?ウクライナの戦争のことを思うと、心が痛む。千住だじゃれ音楽祭の初期に関わってくれたウクライナからの留学生のことも思い出す。音楽にできることはささやかなことだけれども、何らかのアクションを起こすことが、ザワザワする自分の心のためにも必要なことのように思うので、模索してみたい。

 

ということで、いよいよ明日が初日。良い立合いをすべく、ホテルに戻り四股を1000回踏む。

 

作曲家の渋谷慶一郎くんのアンドロイド・オペラの初演の動画が見られるというので、見た。声明とオーケストラとアンドロイドとピアノと、、、。自分の興味のあることにまっすぐ進んでいる感じがとても清々しく、渋谷くんから大きく刺激を受けた。

 

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