野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

嵯峨治彦さんと初セッション/藤倉大『どうしてこうなっちゃったか』

3月5日、6日の京都芸術センターでのダンス公演《棲家》に向けて、譜面を整理したり、バッハの分析をしたり、台本を読み返したりする。劇場では、舞台の設営と照明の仕込みが進行中。ぼくは舞台裏でピアノを練習。北海道から馬頭琴奏者の嵯峨治彦さんが到着。zoomで一度顔合わせはしたもののリアルで会うのは今日が初めて。さっそく音を出してリハーサル。馬頭琴の音色が素晴らしく、共演しながら聴き惚れる。ぼくがピアノの伴奏のニュアンスを少し変えると、嵯峨さんは自然に反応してニュアンスを変えてくる。表現力が豊かな上に、その場での反応もいいので、今日が初合わせでも全く不安がない。振付・演出のきたまりさんの要望の応えながら、いろいろなバージョンを試してみる。オーソドックスなバッハもできるし、モンゴルの風が吹くバッハもできるし、バッハを忘れてモンゴルに行ってしまうこともできる。この辺のテイストは、明日以降、ダンスや照明との兼ね合いで決めていくことになりそう。

 

藤倉大さんの新刊『どうしてこうなっちゃったか』(幻冬舎)を読了。作曲家の自伝だが、音楽の知識が全くなくても面白く読める本。ビジネス書とも言えるくらい交渉に関するエピソードが多い。大阪人である藤倉さんが高校からイギリスに留学し、その中でいかに生き抜いてきたかについての数々の実話。ぼくと好みが違いすぎるのも面白かった。例えば、音大に入学して最初の授業がダルクローズのユーリズミック(リトミック)のワークショップで、ぼくだったら一番面白がりそうだが、藤倉さんは作曲に関係ない授業だと拒否している。音大入学当初は、即興が嫌いでケージが嫌いでブーレーズを尊敬していたりするなど、ほぼ野村の学生時代と正反対。ぼくのキャリアの始まりは、ライブハウス、民族楽器、即興、鍵盤ハーモニカ、現代美術、コンテンポラリーダンスであって、クラシック音楽やオーケストラとは接点ゼロだったが、藤倉さんは作曲コンクールに応募しまくり、クラシック音楽やオーケストラをターゲットにキャリアを始めた。その藤倉さんが、最新作でzoom を使った即興性の高い音楽を書いていて、ぼくが日本センチュリー交響楽団と仕事をしてクラシックやオーケストラとの接点が出てきたことを思うと、全く違うところが出発点だが、意外に近いところに来ているのかもしれない。