野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

バベる!自力でビルを建てる男/菊武祥庭

建築家の岡啓輔さんの著書『バベる!自力でビルを建てる男』(筑摩書房)読了。岡さんとは、今から25年ほど前に東京で出会い、彼がやっていたスペース「岡画郎」を訪ねたり、シンガーソングライターのTASKEのライブで共演したり(岡さんはダンサーでもある)、岡さんが作ったお風呂(建物の外で、宙に浮いていて、木の上にあるようなお風呂)に入らせてもらったりしたことがある。岡さんが東京でビルを作り続けているらしい噂は聞いていたが、本で読んでみて、共感することも多かった。現場の大工さんの気持ちを理解しないで設計する建築家の話を読むと、現場の演奏家の気持ちを理解しないで作曲する作曲家のことを思わずにはいられない。久しぶりに岡さんと会って話したい気持ちになった。

 

www.chikumashobo.co.jp

 

『世界のしょうない音楽祭』に向けて作曲作業。この音楽祭のために数々の作品をつくってきた。大阪音大の井口淳子先生の提案で、地歌の《越後獅子》を題材にした《越後獅子コンチェルト》を作ったのが2018年。日本センチュリー交響楽団の当時のマネージャーの柿塚拓真さんの提案でブリテンの《青少年のための管弦楽入門》をヒントにした《青少年のためのバリバリ管弦楽入門》を作ったのが2019年。2020年は琵琶を題材にした《祇園精舎の宿題の》を作曲したがコロナで上演できず、2021年はオンラインワークショップを経てバーチャルに世界を旅する《日羅印尼中の知音》を作曲した。様々な方々のご尽力で行っているプロジェクトだが、井口先生と柿塚さんを両輪として、様々なことを実現してきた。しかし、昨年、柿塚さんがセンチュリーから転職されてしまい、今年度は大きな柱を失った状態でプロジェクトを進行することとなった。

 

今までの事務的な仕事については、後任の本城聖美さんが引き継いでくださっている。しかし、柿塚さんが担っていたコミュニティ・プログラムに取り組むことからオーケストラの未来を見るビジョンに関しては、すぐに引き継げる業務ではないので、今年度をセンチュリー響としてどう位置づけるか、については、ぼくが考えるしかない。そういう意味で、ぼくは柿塚さんの代わりにそこを考えないと、作曲に着手できない。

 

で、いろいろ考えてみたが、やはりぼくは柿塚さんではないし、オーケストラの組織の中の人間ではないので、ぼくの立場から考えるしかない。だから、一人の作曲家として、4回のワークショップの映像を丁寧に見返して、そこから誠実に音楽を創造するしかない。

 

だから今日は、ワークショップの動画を見返した。そこにある交流と音楽を味わった。そうしているうちに、洋楽と邦楽の間に橋をかけた宮城道雄のことを改めて考えた。と同時に、今回、菊武厚詞先生のおじいさまの考案した19絃という楽器を見せていただいた。菊武先生のおじいさま(菊武祥庭さん)は、宮城道雄と同時代に生きた地歌箏曲家。明治新曲の作曲を数多く手がけられた方でもあるとのこと。少しでも菊武祥庭の音楽世界を勉強して、今回の新曲の創作につなげたいと思う。