野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

サッカー音楽/ワンダフル初演/久保田成子展/クリスチャン・マークレー展/ピアノの実験

本日は、野外でのだじゃれ音楽活動日(@隅田公園そよ風広場)。コロナの感染が広がる中、オンラインでの活動『アジアだじゃれ音Line音楽祭』や『世界だじゃれ音Line音楽祭』などを行なってきたが、本日は密を避け換気の心配のない野外での活動。感染者数も広がってきたので、告知も十分にできず、密やかに行うつもりで出かけた。

 

公園で奏でる!だじゃれ音楽によるスーパー活動日 in 墨田 | アートアクセスあだち 音まち千住の縁

 

しかし、快晴で1月とは思えないほどのポカポカ陽気で、犬の散歩や通りがかりの人が興味を示して、(常に消毒してお貸しする)楽器の体験に参加してくださったり、さらには、用意したボールや縄跳びも大活躍。想像以上のレスポンスがあった。 

 

今日の成果は色々あるが、成果その1は、サッカー音楽。音楽をしながらサッカーの練習のようにボールを蹴ってパスを回していく。これをしないと、楽器をしている人々が密集してしまいやすい。ところが、ボールを蹴ってパスを回すと、自然にソーシャルディスタンスが保たれるし、単に楽器だけをしている時よりも距離があるのに関係性が親密になる。今日の楽器の多くは足を使わずに手を使う楽器だったから、楽器とサッカーは共存できた。

 

成果その2は、ワンダフル。そもそも2014年に作曲した《千住の1010人》でワンダフルというシーンがあり、犬がワンと吠え、楽器が鳴らし、フルートが吹くという曲で、犬が吠えないと実現しない。2014年には101匹の犬を一堂に集めることが足立市場の衛生上の問題でNGで実現しなかった。そこで、2020年に作曲した《帰ってきた千住の1010人》の中でも、ワンダフルを冒頭に入れ、会場も民家から近い公園で犬の散歩にもってこいで、開演までの長い時間のどこで犬が吠えてもワンダフルになるように考えた。ところがコロナで企画自体が実現しなかった。今日は、犬の散歩に数多く遭遇し、ついにワンダフルが実現した。しかも、飼い主さんに企画意図を説明すると、犬が何度も吠えてくれて、しかもリズム感が最高だった。譜面を書いてから8年後に、ついに本物のワンダフルを聞いた。

 

コロナで大変な時期に、告知もほとんどしていないのに、たまたま通りかかった方々が、こんなに楽しんで参加してくださったことで、自分達の企画がある特定の音楽マニアだけにしか理解できないものではなく、広く開かれている企画であると、改めて自信を持つことができた。《帰ってきた千住の1010人》にしたって、できあがる音響や状況は不思議な世界かもしれないが、それでも1010人の出演者を公募で集める前提で作曲したので、それなりに間口の広い音楽のつもりではあったのだ。

 

みなさん、お疲れ様。駆け足で、東京都現代美術館に行って、久保田成子展とクリスチャン・マークレー展を鑑賞。久保田成子展は大阪で見るつもりだったが、予想以上に滋賀のプロジェクトに時間をとられチャンスを逃し続け、気づいたら大阪の展示は終わっていた。そこで東京で見ようと思っていたが、また逃しかねないので今日は駆け込みで行った。展示を見ていたら久保田成子が作曲家のディヴィッド・バーマンと結婚していた時期に、ソニックアーツユニオンとの交流がいろいろあり、その時期に作曲家のアルヴィン・ルシエがメアリー・ルシエと結婚していて、そのメアリーさんが久保田成子を撮影した映像に、アルヴィン・ルシエの初期の代表作の《I am sitting in a room》が流れるという豪華コラボに遭遇。久保田成子実験音楽の接点を感じたりするのも面白い。ビデオ彫刻など久保田成子の作品を多数見ると、彼女は美術出身のビデオアーティストで、ナムジュン・パイクは音楽出身のビデオアーティストだなぁ、とそれぞれの個性や違いをはっきり認識できてよかった。クリスチャン・マークレーは、展示されているけれども楽譜だったりもするので、これを実際に演奏してみるとどんな演奏があり得るだろうか、という興味も色々持った。クリスチャン・マークレー、野村誠、恩田晃などの作品が出た数年前のロンドンのグループ展の記録冊子、いつできるんだろう?とふと思った。

 

その後、東京藝大にて、藝大ピアノ科のリートくんと、音まち事務局との打ち合わせ。明日の野村誠レクチャー&コンサート『シゴトがないところにシゴトをつくる』に向けて、2時間以上話し込んだあとに、ピアノを使っての実験をいろいろやった。面白いことになりそう。いよいよ明日。