野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

パイプの中に入る/《たいようオルガン》完成

水戸芸術館で滞在制作中。本日は、オルガンの内部に入らせていただいた。3000本以上のパイプがあるオルガンの裏側。超巨大なパイプから、ほんの数㎝の短いパイプまで。あれだけ低い音から高い音まであるのだから、短いパイプから、太くて長い巨大パイプまで様々。こうして、オルガンの中を探検させていただくと、ますます愛着が沸き、作曲も頑張れる。

 

午後は、ピアノのある楽屋と、ホールのスタッフ部屋に収納されているポジティブオルガンを使わせていただき、作曲作業。ポジティブオルガンは、2段鍵盤があり、それに加えて足鍵盤がある。これで音を出しながら譜面の手直しをしていく。あと、オルガンに触ったことで、オルガンパートがどんどん変わっていったので、それに伴い歌も変化していく。今日は、歌のパートを全部自分で歌ってみて確認して、こちらもかなり手直しした。気がついたら、4時間ほどぶっ通しで作業をしていて、お弁当を食べて、18時半からエントランスホールで、オルガンと作業。今日までなので、終わるまで。作業が難航すれば徹夜もあり得る。

 

昨日、足鍵盤、1段目、2段目の鍵盤のパイプの音色を全て確認したので、今日は3段目のパイプの音色を確認していく。こうやって一つひとつの音色を確認すると、それに触発されて、新たなフレーズが生まれてくる。それを今の譜面の中にトッピングしていく。このオルガンは、東日本大震災でパイプが倒壊したのを修復して、復活したオルガンだ。修復の際に新たに加わった水笛の音と金属音がある。せっかくなので、この二つの音も曲の中に盛り込んだ。せっかく水戸に来て、ここで滞在制作して作っている曲なのだから、水戸のオルガンの特色は最大限活かしたかった。この曲は、荒井良二さんの絵本に触発されたところが大きいのは言うまでもないが、水戸のオルガンを前提に書いた。曲の中に、過去に野村が水戸で行なった様々なプロジェクトの名残も少しずつ忍ばせてある。外は土砂降りの雨で雷の音もする。絵本の中の雨と雷のページを思い出す。

 

大雨の中、再度、曲の冒頭から終わりまで、実際にオルガンを触りながら、歌の部分を自分で試しに歌ってみながら、確認していく。最後の推敲と思っているのに、まだまだ変わっていく。こうやって、閉館後の誰もいない芸術館のエントランスで、一人オルガンを弾いていると、こうやってここでオルガンを練習したり、オルガンの音色を作ってきたオルガニストたちの体験が自分の体に重なってくるような感覚になる。石丸由佳さんも、阿部翠さんも、本田ひまわりさんも、みんなこういう時間を過ごしてきたんだろう。その感覚や感触の痕跡を、少しでも曲の中に残そうと、少しずつ校正。

 

外の雨が少し小降りになってきた頃に、オルガンでの作業は終わり、あとはパソコンに向かって、譜面を書き直して、22時頃にようやく終わる。芸術館の中村さんにプリントアウトしてもらいに学芸員室に行くと、美術部門の森山さんに会う。森山さんと26年前に出会ったのがつい昨日のことのようだ。今日、お昼にあった音楽部門のオルガンアシスタントの新人の高木さんに会って、四半世紀前の森山さんを思い出した。かつて水戸にいた若手学芸員だった黒沢(伸)さんや森(司)さんがもう還暦なんだよ、と同窓会っぽい話をする。

 

新曲が完成して、水戸での重大任務が終わって、ほっとする。でも、新型コロナウイルスの感染は広がっているようで、気を抜かずに、手洗いうがいをして、明日からも気を引き締めていこうと思う。最終的に14曲のタイトルは、以下のようになった。

 

たいようオルガン(2021)

 

1 あさがきた前奏曲

2 ゾウバストッカータ

3 賛美歌くさはえてる

4 はたけある音頭

5 DJくもりのくも

6 ビルいっぱい音列

7 あめドラム

8 あめやんで間奏曲

9 ゾウバス追走曲

10   民謡うみのにおい

11   おちゃいただきファンファーレ

12   すないっぱい行進曲

13   ゆうやけカーニバル

14  つきオルガン夜想曲