野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

光永浩一郎さんと「ニーナ」を観る

作曲家の光永浩一郎さんとの再会。光永さんとは過去に二度お会いしたことがあり、2005年に東京で、2017年に神戸でお会いした。

 

光永さんの音楽を初めて聞いた印象を2005年当時の日記には、

 

熊本在住の作曲家、光永浩一郎さんのハーモニカ+ギター+ピアノの曲が、演奏が大変な曲だが、楽しくスリリングで面白かった。

なぞい・むずい・みずい - 野村誠の作曲日記

 

と書いている。その時に名刺をいただき、その後、メールで鍵盤ハーモニカの新曲を委嘱したのだが、メールアドレスが変わったのかメールがうまく届かず、熊本在住のユニークな作曲家との交流は叶わなかった。

 

その後、2017年5月にfacebookでお名前を検索したところ光永さんの名前を見つけて、交流が始まり、光永作品のDVDなど資料も送っていただき、熊本にこのような個性的な作曲家がいるのだ、いつか熊本に行ってコラボしてみたい、との思いを強くした。同年10月には、光永さんの演奏会が神戸であり、光永さんご自身の自作自演に触れる機会も得た。その時の日記がこちら。

 

近藤浩平と光永浩一郎の音楽 - 野村誠の作曲日記

 

光永さんにお会いするのは、今日が3度目である。光永さんに熊本を案内していただく。光永さんは、最近、石牟礼道子の「苦海浄土」を題材に、昨年《苦海浄土に寄せる》という作品を作曲したそうだ。光永さんが演奏したこともある島田美術館にも連れて行っていただき、展示も楽しみ美術館の空間も楽しみ、その後、光永さんのお宅で歓談。本棚に数多く並ぶスコアのセレクションが素晴らしく、ジョリヴェのピアノ曲《Mana》の楽譜を見て、ピアノで弾いてみたり、光永さんが数々のオーケストラ曲をご自身のためにピアノに編曲した譜面を、次々に弾いてくださる。オネゲル、ジョリヴェなど。

 

本日は、古木さんという方のIori Shinobutakeという昨年オープンした私設スペースにて、演劇公演を観た。ゼーロンの会という劇団を主宰する上村清彦さんの演出で、チェーホフの「かもめ」を下敷きにした「ニーナ」という公演。一人芝居のニーナ役が日吉夏美さんで、音楽が作曲家の岩下周二さんのピアノ独奏。私設スペースと聞いて、勝手に和室の畳敷きをイメージしていたが、土足で入れて、簡単なケータリングができそうな水回りのあるカウンターがあり、グランドピアノがあり、外光の入る窓ガラスのサロン。光永さんが、上村さん、岩下さんなどに次々に紹介してくださり、ほどなく開演。20名ほどの客席。

 

ピアニストの岩下さんは真っ黒な衣装で黒い靴で登場し、一人芝居の日吉さんは、真っ白な衣装に裸足で登場。チェーホフであり、現代語で標準語であるが、裸足であることと、後ろに楽士がいることからか、台詞を言わずにゆっくり動く時など、能のような雰囲気を醸し出す。長髪の髪を前にうなだれるシーンは、連獅子のようで、能舞台に見えてくる。ピアノの演奏と一人芝居の台詞が交互に登場するが、ついには長時間(おそらく15分以上)、協奏曲のカデンツのような、ジャズの名手の長大なアドリブソロのような長台詞が音楽なしで繰り広げられ、ニーナは退出していく。岩下さんの力強いピアノの音色も、日吉さんの演技も、ダイレクトに剥き出しに発するような勢いがあり、それを同じ空間の中で浴びる。

 

終演後、光永さんがいろいろな方に紹介してくださる。熊本で、少しずつ出会いが始まっていく予感。

 

本日、野村誠作曲の《どすこい!シュトックハウゼン》が京都で低音デュオにより演奏されたようで、いくつか反響を聞く。自分自身は立ち会えなかったけれども、こうして間接的に自分の曲の反響を聞けるのも嬉しい。きっと、素晴らしい演奏だったのだろう。

 

作曲家のフレデリック・ジェフスキーの訃報。83歳だった。来日コンサートの時に、高橋悠治さんと一緒に少しだけお話させていただいたことがあった。また、ぼくの曲を、向井山朋子さんとジェフスキーさんとで2台ピアノで演奏していただいたことがあったそうで、大変光栄で、いつか再会したいと思っていたが叶わず。合掌。