野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

わいわい虹の村/つなぎ美術館/水俣病資料館/イギリスとのセッション「耳栓指揮者」

里村さんの仕事がオフなので、お出かけ。八代駅前の珈琲店ミックでランチ。このジャズが流れるレトロな喫茶店の白い壁面(+別室)で、「わいわい虹の村」絵画クラブ作品展が行われていた。「わいわい虹の村」は、社会福祉法人川岳福祉会が運営するパン屋さんだったそうだが、昨年の球磨川豪雨氾濫でパン工場が濁流に飲まれて全壊し、工場が再建/再開するまでの間、仕事がなくなった利用者の方々が絵画を始めた。その展覧会。天災の被害で奪われたものの代わりに、絵を描くことが始まり、こうやって展覧会になったというもの。このお店、居心地よく、また来てみたい。

 

続いて、つなぎ美術館へ。津奈木町という地名だから、つなぎ美術館。今は運行していなかったが、美術館からモノレールで、岩肌の裏山に登れるようになっている。なかなかの絶景で、この岩山(舞鶴城公園)のふもとに美術館。ロケーションいい。

 

企画展は、「香梅アートアワード奨励賞選抜二人展 リフレクション」というものだった。蔵野由紀子、佐野直という二人の作品。

 

「香梅アートアワード奨励賞選抜二人展 リフレクション」 開催のお知らせ / つなぎ美術館TOP / 津奈木町

 

蔵野作品は、最初に大きなテンペラ画が3点あり、それらはいずれも15年近く以前の作品で、巨大な画面いっぱいに目が描かれ、まつげなどが印象的に描かれる作品。その後は、それよりは小さめなサイズの絵が続き、最後に水彩の植物などが何点も並ぶ。二人点と知らずに見たら、前半の巨大な目と後半の花は同じ作家の作品と思わなかっただろう。20年弱の間に、作品のモチーフも大きく変わっていき、画風も変わっていく。本人の中では、一貫しているのかもしれないけれども、その変化の過程が気になった。佐野作品は、印象派の点描画と東洋の山水画の融合とでも言うか、非常にカラフルに点描された風景と余白で構成されていて、余白があるからこそ、平面なのに立体的に点描が浮き上がる。

 

ロビーに町のプロモーションビデオという名のアーティストインタビュー映像が流れていた。ピアノを中心としたBGMが流れ続けているが、音楽のクレジットはなく(見落としたかな?)不明。レジデンスをしたアーティストたちのコメントなど。

 

3階では、レジデンスの成果、「赤崎水曜日郵便局 水曜日の消息」が展示されている。全国から9000通以上の手紙が届き、そのうちの100通ほどが書籍に掲載されていて、今回200通が展示されている。200通を全部読むというよりは、少しだけ読んだ。手書きで書かれた手紙に書かれた個人の水曜日の物語は、匿名の人の日常を覗き見しているような感覚になる。逆に、自分の日常の一コマだったり、些細な悩みだったり、ちょっとした気持ちを、どこかの誰かに投げてみたくて参加した手紙が、こんなにあるのか、と驚く。「野村誠の作曲日記」などという自分の日常を垂れ流しているブログを書いているのだから、驚く方がおかしいのかもしれない。「ガチャ・コン音楽祭」でも、近江鉄道の物語をいっぱい集めてみたいけれども、もし9000通来ちゃったら、全部、歌にする覚悟あるかなぁ。9000通来ても、何年かかかっても、全部に向き合うくらいの覚悟で、作曲しますって宣言するのもあるのかもなぁ。

 

少しだけ時間があるので、水俣病資料館に行く。改めて、水俣病の最初の患者が出てから、チッソが排水をやめるまでに、本当に長い年月がかかっていること、いろいろな補償や裁判までに、こんなに時間がかかっているのか、と溜め息が出る。原発でも、東京オリンピックでも、一度始めてしまったことは、簡単には止められない。止めるのは始めるよりも遥かに労力がいる。しかも、止めること自体は、何のプラスも生み出さない。でも、止めないと、もっと大きな被害を生み出す。

 

帰って、イギリスのHugh NankivellとEmma Weltonがやっているファミリー・オーケストラのAuberginesとだじゃ研の合同セッションに参加。いつも、イギリス人と日本人が半々くらいなのに、今日は、日本からはぼくだけ参加で、なんというか懐かしい感じだった。よく考えると、ぼくがイギリスに行ってヒューの家に泊まって、ヒューと一緒に仕事をする時は、だいたいイギリス人ばかりの中にいる。逆に、ヒューを日本に招いて何かする時は、日本人ばかりの中にヒューがいる。リモートセッションの画期的なのは、この二つが混ざり合う状況になることだった。今日は、ぼく以外がイギリスだったので、久しぶりに四面楚歌ならぬ四面イギリス。小学生と思われる女の子が非常に明瞭に意見していて、zoomで音がずれるのをチェックすべく、指揮をして、それに合わせて演奏した。指揮をしている人は実際に動かした後に、音が遅れて出てくるので、音を聞きながら指揮をすると、だんだん遅くなりそうになって、テンポを保つのが難しい。だから、聞いて合わせないで自分のテンポで進めた方がいい。それは、プロのオーケストラを指揮することと似ている。じゃあ、プロのオーケストラの指揮者が耳栓をして演奏したら、演奏は違うだろうか、と彼女が言った。子どもは素直に疑問を投げかけ、それは本質的なことだったりする。耳栓指揮者は、可能性がある。