野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

低音デュオ

ながらの座・座での「動態展示」で庭の池に雨がつくる波紋と共演。あまりにも美しく、トイピアノで演奏するのと、ケンハモで演奏するので、まったく違う見え方がする。雨の日に来てよかったと言っていただく。

 

東京に移動。杉並公会堂での低音デュオ(松平敬+橋本晋哉)のコンサートへ。野村誠作曲の《どすこい!シュトックハウゼン》の世界初演を聴きに来た。自分の曲が演奏されることも嬉しかったのだが、コンサートの後半が1968年生まれの3人の作曲家の曲が並んだことも、実はとても嬉しかった。

 

伊左治直、夏田昌和野村誠。3人の1968年生まれの作曲家。彼らの名前を知ったのは20代前半の頃。1968年生まれの作曲家が25歳になる1993年に開催されたかもしれない企画の企画書だった。その企画書には、田中吉史さんの名前もあった。同じ1968年生まれというだけだが、彼らの作品には人生の節々で触発され続けてきた。だから、彼らと同じコンサートで自分の作品が演奏されることは貴重な機会だった。

 

伊左治くんの曲が本当に異世界に誘われるようで、目をつぶって聞いた。それまでコンサートだったのが、急にその場が劇場になった。伊左治ワールドへの旅だった。続いて、夏田さんの作品は、耳で聞くと同時に見る作品でもあった。バリトンとチューバという二つの発音体の重なり合い方を1)ユニゾン、2)リズムユニゾンだが音はチューバのソロ、3)バリトンとチューバで単旋律と音の組み合わせで楽しむと同時に、コロナや首相の演説といった今を感じるテキストでもあり、伊左治作品で異世界に行ったとしたら、ここでは現実という虚構に立ち会うような感覚であった。この二人の作品と自分の作品が一緒にあったことは、3人の作曲家の作品で協力して大きな物語を作っているようでもあり、3人の作風が全く違うアプローチであるのに、3人で協力して一つのステージを作っているような感覚になった。そして、低音デュオのお二人が、その全く違う作風の世界を一つひとつ素敵に描き上げ、こんなときめきの時間が過ごせたのだと思う。

 

ぼくの《どすこい!シュトックハウゼン》は、ゲネプロの時よりも、本番は力が入っていて、初演らしい生まれてくる演奏だった。曲の展開や流れは、ゲネプロの時の方がスムーズだったが、本番はそれにプラスしようとする二人の現場での微妙なやりとりがあり、ある意味、予定調和でない本番ならではの取組だった。何かの正解をなぞるのではない。譜面通りに演奏しているのだが、それでも、それぞれが細かく様々な攻防があり、うまく噛み合ったり、ちょっと食い違いがあったりしながら、アンサンブルを作っていく。相撲のようにスリリングだった。今後もこの曲の演奏に何度も立ち会いたいと思った。

 

木方幹人さんを訪ね、アートの話やいろいろな話をした。建築ジャーナル編集長の西川直子さんに北海道の芽武の話をした。建築の世界もただ建物を建てるだけでなく、沼がテーマになったり、諫早湾がテーマになったり面白い。