野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

5箇所をつないだ実験パフォーマンス

今日は、本当にヘトヘトになった。不思議な体験をした。かなりカオスの中で、様々なコミュニケーションの糸口を探した。そのカオスな場には、複数の場から様々な立ち位置の人が関与していて、誰も全体を把握していない環境で、その時間をそれぞれの人がそれぞれの体験をしていた。ぼくの体験と、YouTubeアーカイブに残った映像とでは、全然違う体験でもあり、関わった人の数だけの体験があったのだろう、と思う。

 

と、いきなり書いたが、今日は、アーツカウンシルみやざきの企画で、シンポジウムと実験パフォーマンスにリモートで参加した。リモートで5箇所をつなぐ意欲的な企画。

 

1)都城の障害者施設の「みどりえん」

2)都城の障害者施設「ゆいまーる」

3)大阪の佐久間新さん

4)京都の野村誠

5)都城のMJホール

 

シンポジウムには、アーツカウンシルみやざきの山森達也さん、コメンテーターの長津結一郎さん、柿塚拓真さん、MJホールの徳永紫保さん、そして、佐久間さんと野村。そして、途中で、みどりえん、ゆいまーるからも職員の方がコメント。シンポジウムは、一人ずつが順番に語って時間になってしまい、ディスカッションの時間がなかったが、でも、面白い話題がいっぱいあった。

 

そして、実験パフォーマンスは、そもそも、アーツカウンシル宮崎の山森さんの発案でやることになったもの。コロナ禍で様々なオンラインイベントが行われる中、ホールの意味を考えたいということで、MJホールを使って、リモートを駆使して何かできないか、と考えたもの。透過スクリーンを使って、ホールの舞台上で4箇所がバーチャルに共演する、というもの。

 

このアイディアを聞いた時に、インドネシア舞踊家のミロト・マルティヌスのことを思い出した。彼が8年ほど前に、似たようなアイディアで日本や韓国やアメリカのダンサーと舞台上で共演しているように見えるテレコラボレーションを試行錯誤していた(当時はスカイプを使ってやっていた)。

 

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今回、この実験ワークショップ/パフォーマンスをして、MJホールの音響や照明の舞台スタッフの方々と一緒に仕事ができたことが、すごく嬉しい。コロナでホールでの公演が激減した中、音響家や照明家にとって仕事の現場自体が激減したと思う。また、従来通りに対面で施設にアウトリーチしてのワークショップだと、アーティストは派遣されても、そこに照明家や音響家は派遣されない。でも、今回は、施設の人たちとアーティストがコラボするために、その橋渡しをする役割として、ホールの舞台スタッフが大活躍した。そのことに、すごく可能性を感じた。コロナが終わって、また対面でワークショップできるようになったとしても、そこに音響家や照明家が加わるワークショップを実現できるといい。

 

アーカイブ映像を見たら、自分が見ていた風景が全然映っていなくてびっくりした。多分、即興で演奏している時は、ものすごいスピードで複数の画面を見て、瞬時に判断して演奏を変化させている。ぼくが映っているモニターの前で手拍子をした人の姿が見えた直後に、ぼくは手を叩き始めたのだが、アーカイブ動画では、突然、ぼくが手を叩き始めている。座っていた子どもたちが次々に立ち上がって、施設職員と踊っている時、一人だけずっと座っている子がいて、その子に立ち上がろうと促す職員さんがいるのを見た直後に、ぼくが「座っててもいい」という歌詞で歌い、その後、「寝転んでもいい」と歌って、それからしばらくすると、実際に、ゴロゴロ寝ころんでいるシーンになったのだが、アーカイブ動画を見ると、ぼくが突然「座っててもいい」と歌い始めている。ぼくの演奏の多くは、あの場で起こっていたことに触発されて反応したものだったけれども、それらのきっかけの多くは、実は映っていない。でも、逆に、その時には気づかなかったけれども、アーカイブ動画から見えてくること、聞こえてくることもある。

 

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 ヘトヘトになったけれども、全く接触していないけれども、かなり接触したセッションだった。そして、さすが佐久間さんのダンスや表情が面白く、リモートでも何の問題もなく佐久間さんの動きは触発し、ゆいまーる、みどりえんの方々との絶妙なコミュニケーションが多々あった。しかし、佐久間さんの終わった後のコメントが、あまり納得できてなさそうな、セッションした実感が持ててなさそうな半信半疑なコメントで、そのことも、なんだか面白いな、と思った。佐久間さんの持つ違和感について、もっと知りたいと思い、そうした感覚のズレが顕著になったことも、今日やってよかったことの一つだな、と思った。

 

リモートだと、一瞬で退出してしまう。あの後、舞台を撤収しているスタッフたちに、「おつかれさまでしたー」と声をかけてから帰りたかったけれども、それができなかった。舞台裏で、ちょっとかわす会話とか、「お先に失礼します。お世話になりました。おつかれさまでした。」と言って帰りたかったなぁ。長津くんや柿塚さんにも挨拶できず、ホールや財団の関係者の方々にも挨拶できず。だから、ここで言います。おつかれさまでした。