野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

船上の音楽

なかなか説明が難しいことだが、この10年間、東京の千住で行なってきたアートプロジェクトがあって、10年前に、足立智美大友良英、大巻伸嗣、野村誠の4人のアーティストと4つのプロジェクトを開始した。その時、大友さんは「チームアンサンブルズ」といって、その人たちと一緒に企画を考えて活動するチームを作ると宣言して活動を始めた。ぼくは、だじゃれで音楽をやりたいと言って活動を始めた。ぼくは「チームアンサンブルズ」を作るつもりはなかった。しかし、しばらくすると、ぼくが作るつもりでなかった「チームアンサンブルズ」的なものが、ぼくの企画の中に自然発生していた。それは、「チームアンサンブルズ」などというカッコイイ名称ではなく、「だじゃ研」という意味不明な名前だった。活動を続ければ続けるほど、この「だじゃ研」は柔軟性の高い企画/運営/演奏チームへと進化していった。「だじゃ研」の活動は、今や大友さんが「チームアンサンブルズ」の構想で語っていたような凄いチームなのだが、ぼくは未だに「だじゃ研」を上手にプロモートすることができていない。

 

「だじゃ研」は、最初は特別な存在だとは思わなかったが、今となっては、これこそが最先端のアートかもしれない。ひょっとしたら、最先端すぎて、誰も最先端であることにすら気づいていないのかもしれない。既存の枠組みの何でも説明できないチームであって、「だじゃ研」を巡って面白いことは色々起こる。プロの音楽集団でもないが、プロ音楽家音楽学部の学生などもいれば、全然音楽は苦手です、楽器はできませんという人もいて、しかし、どの人も必要で、甚だ自由な場で、メンバーが得意なことをより集めながら、色々な相互作用が起こっていて、何を目的にしているのだかしていないのだか、ゆるやかに集まり続けている。

 

このコロナの1年間、オンラインになりながら、「だじゃ研」の活動は、毎週や隔週くらいのペースで継続し続けて、『世界だじゃれ音Line音楽祭』も「だじゃ研」の存在なしには実現しなかったし、さらには、今では、イギリスとの交流プロジェクトまで始まっている。

 

今日は、今年度、初めて、「だじゃ研」を対面で集まった。密にならないために、第1部は隅田川の船上で集った。平日の昼間にも関わらず、たくさん集まってくれた。金管楽器などは、狭い空間で吹けないし、音量が大きく近所迷惑になる。だから1年ぶりに音を出した人もいた。船の上で音を出すと、川岸にいる人がいっぱい手を振ってくれた。これを動画撮影したので、「船上の音楽」として、この動画に合わせて、イギリスのAuberginesに音を重ねてコラボしようか、と思う。ダンサーの佐久間新さんにも加わってもらい、楽しいセッションになった。

 

対面のワークショップのその2は、広いホールで行なった。天井も高く、空間も広く、そこに広がるとディスタンスもとれる。みんなマイペースに音を出したり、楽器を鳴らしたり、歩き回ったり、踊ったり、それぞれのことをしている。長年かけて培ったこの不思議な集団は、本当に大きな財産である。そのことを目の当たりにしていない人には、何のこっちゃ分からないであろうし、こうして文章で魅力を説明しようとしても、うまく説明できずに窮している。でも、そのための言葉を見つけなければいけない。でも、「だじゃ研」は説明できないままで十分面白く、メンバーは増えていき、幸せそうな交流が続いている。わざわざ仕事を休んで平日の昼間に集まってくれた人たちがこんなにいる。このことを大切にしていかないと、と思う。

 

「だじゃ研」のメンバーである小日山拓也さんの作品集ブックレットが完成していて、とても素晴らしい。彼の溢れるように出てくる様々なアイディアやスケッチなどを、こうして形に残してまとめると、本当に貴重。