野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

Memu Earth Labレジデンス4日目/如月小春とのコラボ

北海道のMemu Earth Labでのレジデンス4日目。昨日、一昨日は海辺に出かけたので、本日は山へ。歴舟川を上流に上っていき、カムイコタン公園から歴舟川の河原を散策。ここにも流木がある。水たまりの表面に氷が張っていて、それを流木で鳴らして演奏する。途中で氷にヒビが入り、さらに演奏すると氷が割れて、ついには水の音がする。流木を杖のようにしながら、地面と交信する演奏が、徐々にテーマの一つになってくる。

 

川沿いを歩く。川のせせらぎの音響が川のカーブにそって変化する。向こう岸の山のエコーと遊ぶ。石の上を流木の杖で奏でる。こちらの岸、狐も反応。

 

その後、尾田に行き、画家の森下良三さんのアトリエを見学させていただき、作品に感銘を受けると同時に、ご夫婦のお話などを伺い暮らしぶりにも感銘を受けて後、山道を入っていく。光地園と呼ばれるエリアから、さらに山の中に入って行く。山の中で少しだけ時間を過ごす。風が熊笹の葉を揺らすのが、オーケストラのよう。ぼくは、スレイベルで熊笹の演奏を参考に演奏する。ベルを微かに揺らしたり激しく揺らしたり。風で音を出す熊笹の演奏は、本当に素晴らしい。こんなところに素晴らしいオーケストラがあった。いくつかの牧場を巡ったが、買い物はできるがコロナで飲食ができないらしく、昼食難民になり、宿舎に戻り昼食の後、日没前に、Memuから最も近い浜に行く。そこには、流木がうず高く積み上げられている。流木が鮭漁の邪魔になるため、ブルドーザーなどで流木を撤去している。それが、浜の生態系を変えることにもなり、他の浜では生息する植物がいなくなってしまうらしい。巨大な流木の中に、楽器としてもオブジェとしても魅力的なものが多数ある。流木を奏でる。

 

宿舎に戻り、劇作家/演出家の如月小春さんに関するシンポジウムをネット配信で見る。如月さんとは知り合ったのは、2020年7月だった。芸団協主催のシンポジウムで、彼女もパネリストでぼくもパネリストだった。終わった後に、有名人の如月さんの方から声をかけてこられて、連絡先を交換し、兵庫で行なっているワークショップの野外演劇を観に来て欲しく、いずれ関わって欲しいと言われ、8月に見に行った。9月に、ぼくがやっている鍵盤ハーモニカのバンドP-ブロッのコンサート(@門仲天井ホール)を観に来てくださり、10月には、北海道でお年寄りと演劇をしている作業療法士の川口淳一さんをご紹介して下さり、東大と立教大での川口さんのレクチャーでご一緒したり、野村が老人ホーム「さくら苑」でやっている共同作曲の現場を(川口さん、柏木陽さんを伴って)見学に来られた。そして、飲み会に誘っていただき、いろいろな方に紹介していただいた。そして、12月、如月さんは帰らぬ人となり、お通夜で最後の挨拶をさせていただいた。たった、数ヶ月の間、もの凄く濃密にコミュニケーションさせていただいた如月さんは、ぼくらと何かを始めようとしていた。彼女は何を始めようと思っていたのだろう?彼女は、多くを語らずに、逝ってしまった。20年経っても、相変わらず、彼女の残した宿題のことを考える。如月さんにご紹介いただいた立教大学で、2001年から何年か1日講義をしたし、如月さんにご紹介いただいた当時東京大学教授だった佐藤学さんの企画でお話をさせていただいたり、佐藤先生編集の本に原稿を書かせていただいたりした。如月さんにご紹介いただいた柏木くんと演劇と音楽のコラボをしたし、如月さんにご紹介いただいた川口さんと、シンポジウムをやったりした。如月さんがいろいろな人と繋いでくれたけど、でも、この20年、ぼくは如月さんとコラボをしていない気がする。もう一度、如月小春に向き合ってみて、どんなコラボができるか考えてみようと思う。