野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

おっさん姉妹のための新曲/「保存」とは?

本日は、ウキウキ気分で作曲した。片岡祐介さんに先日、新曲《Chant for Sleep》の音源のマスタリングと録音にのっかってしまったノイズ除去をお願いして素晴らしい仕事をしていただいき、今回、そのお礼に、ピアノ連弾曲を作曲することになっている。片岡さんと鈴木潤さんが演奏する前提で作曲。リモートではなく、同じ場所で演奏するための曲ということで、タイムラグのないノリノリで不思議な響きのダンスミュージックを作曲中。今日は86小節目まで書いた。二人の演奏を想像しながら書くのは楽しい。

 

イギリスのJohn Richardsからのメールに、ぼくが2019に作曲したエレクトロニクスのアンサンブルのための「Between Friendly and Unfriendly」の楽譜がイラスト付きで送られてきた。近々、出版されるらしく、ぼくの文章だけの譜面がイラストと手書きの文字でデザインされてきた。

 

『オペラ双葉山』の創作が始まったばかりなのに、先月「オペラ双葉山保存会」が結成された。そして、『オペラ双葉山』を保存する最初の活動とも言うべき「JACSHAフォーラム2020 『オペラ双葉山』とは何か?」という冊子が今月中にできあがる予定だ。ここで言う「保存」とは何か?preservationとかconservationという保存ではなく、inheritance「継承する」という意味での保存。

 

「JACSHAフォーラム2020 『オペラ双葉山』とは何か?」は、JACSHA世話人の里村真理さんが編集&デザインで奇跡的なスケジュールの中、土俵際で踏ん張って進めていった。今年、城崎国際アートセンターで行った3つのフォーラムが主軸となっていて、いずれも「JACSHAの『オペラ双葉山』」というタイトルで行われた。1回目が元力士の一ノ矢さんをゲストに迎え「心技体と双葉山」について、2回目が城崎国際アートセンターの橋本麻希さん、吉田雄一郎さんをゲストに迎えて「地域、訳のわからないものを支援すること」について、3回目がコントラバス奏者の四戸香那さんをゲストに迎えた「相撲と演奏」について語り合った。これに、2016年の9回のフォーラムからの抜粋で相撲聞芸術を巡る様々な問答が散りばめられ、JACSHA年表、四股1000について、『オペラ双葉山』の構想と、過去/現在/未来を含める充実の冊子になった。この冊子は一般に流通するものではなく、限定部数を印刷するので、PDF版をダウンロードできるようにするとか、色々仕組みを考えていかないといけない。でも、できあがってくるのが本当に楽しみだ。

 

以前、「音楽の未来を作曲する」(晶文社)という本で、「報告譜」とか「柔らかい楽譜」とか「ポストワークショップ」などという言葉で、いろいろ説明した。物事を記録する、アーカイブする、保存する、継承するなど、いろいろな言い方があるけれども、ぼくはそこで変容があったり、誤解があったり、歪みがあったりして、創造的な逸脱があることが好みなのだと思う。だから、そこからイマジネーションが膨らんでいくような仕掛けをどう作っていくか、ということに興味がある。外見上は全然保存されていないと思われても、肝心のエッセンスは形を変容させながら残っていくようなイメージ。また、時間がある時に、ゆっくり書こう。今日は、この辺で。