野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

単音から和音を経てクラスターへ

Composite by the Numbersは、フィリピンのキュレーターDayang Yraolaがキュレーションするウェブ上の展覧会。現在のパンデミックの状況を踏まえて、そのデータをもとに楽譜をつくり、それを演奏した動画をあげる。ということで、各アーティストが、文章(ステートメント)、ビジュアル(楽譜)、ビデオ(演奏)の3つの方法で表現するフォーマットができている。

 

ぼくは、2月14日から9月16日までの日本国内でのcovid-19の死亡者数を楽譜にしようと考えて、作業を始めている。今日は、五線紙に手書きで、2月14日から5月8日あたりまでの死亡者数分の音符を書き込んでいく作業をしてみた。ピアノ曲として書いている。指は両手で10本ある。1日あたりの死亡者数が10人以下であれば、10音までの和音は、指で弾くことができる。ところが、26人とか、30人とか、49人になると、同時に26音や30音や49音を10本の指で演奏することが不可能になり、手のひらや腕全体や肘などを使って、一度に多数の鍵盤を演奏するクラスターという奏法が必要になる。作曲していくと、最初はゆったりとした単音がポツポツ鳴るし、途中までは10本の指で弾ける曲だが、あるポイントを過ぎると、クラスターの連続で大暴れしなければ演奏が成立しないことになる。ニュースなどで、クラスターが発生とか医療崩壊とかいう言葉を聞いたが、本当にもうギリギリだ。もう全身使って演奏するのが間に合うかどうかのギリギリくらいで、これ以上増えると、演奏不可能で演奏崩壊してしまう。クラスターが発生で医療崩壊という実情は、実際に音楽にしてみると、体感として理解できる。

 

死亡者数によって割り当てられる各小節の音符の数。各音の音高も、ルールを決めて数字から割り出すようにしていたのだが、今日は、そこは自分の感覚で決める方針に変えてみた。それぞれの音符が亡くなられた方の魂であるならば、それを供養すべく、自分の感覚で鎮魂に作曲に取り組んでみようと思った。そうして、少しずつ書き直している。そして、ピアノで練習して、また書き直す。これから1週間は、こうした作業を続けていこう。

 

https://compositebythenumbers.com/featured-work/

 

夜は、山本亜美リサイタルで世界初演になる新曲『世界をしずめる 踏歌 戸島美喜夫へ』の曲目解説の執筆。戸島美喜夫先生への思いや、踏歌神事のリサーチのこと、パンデミックのこと、いろいろ書きたいことが多くて、結構、長文になった。

 

www.youtube.com