野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

音楽に一体感を求めない/2020年のローファイ音楽(愛知大学の講義より)

今朝の「四股1000」では、目をつぶって四股を踏んでみるのと目を開けて踏むのとで、どう感じ方が違うか試してみた。一ノ矢さんの本の中での安田登さんの問い「四股の「股」ってどこを指すの?」から、足の付け根はどこだろう?腕の付け根はどこだろう?と語り合ったりする。

 

午後は、愛知大学のオンライン授業。今日の収穫は、「一体感でない音楽」、「ローファイ音楽」の2つの言葉を見つけたこと。

 

大学の授業をオンラインでやるのは、初体験。大学生たちに、最近の授業ってどんな感じなのと質問。ZOOMの授業もあるけど、先生がビデオをあげていて、それを見るのもあるらしい。あがっている動画は、いつ見てもいいから、知らないうちにたまってしまって、後で大変だったり。通学に時間がかからない、生活リズムが狂う、パソコンの前にずっといると疲れる、目が疲れる、サークルの勧誘もオンライン、ジャズ研だけど楽器はサークルに行かないと弾けないから、楽器をずっと触ってない、などなど。

 

部屋にある植物か緑色のものをみんなで持ち寄って、写真撮影。続いて、赤いものを持ち寄って、みんなで撮影。続いて、青いもの。続いて、丸いもの。意外に面白い絵になる。

 

グループ分けして、掃除機の合奏をする。メイがグループ分けしている間に、太鼓を叩き、これに合わせて手拍子してもらう。手拍子の音が聞こえないので、オーディオ設定をいじって、ノイズキャンセルしないように設定し直してもらう。今度は手拍子聞こえる。

 

ZOOMにグループ活動できる機能があるので、グループ分けして作ってもらう。掃除機の4重奏が4組と、最後に門限ズでの掃除機カルテット!掃除機はエレキギターのように持てるし、銃のようにもなる。掃除機一つで音楽もできるし、演劇もできる。みんなの感想を、チャットに書いてもらう。一斉に全部の学生の感想コメントが集まる。クイックにみんなの感想が見れて、これは面白い。

 

休憩後は、おかしを食べる。全員でおやつを食べる音をビデオにとる。そして、それを音なしで再生して見てみる。次は、音ありで再生。さらに、そこに、野村がピアノ演奏。ピアノの曲調を変えると、お菓子を食べる姿が違った表情に見えてくる。

 

続いてのグループワークで、家の中の好きな音を探しての合奏。ここで大切なことは、自分のところで魅力的な音が、果たして、他の人のところでも魅力的かを確認し合うこと。ZOOMは解像度を荒く情報を少なくして伝えるので、音質はローファイ。では、ローファイがダメなのではなく、このローファイに適応する音を探すこと。何が伝わり、何は伝わらないのか。意外と下敷きのたわませる音が、しっかり伝わったりするし、音量が弱くて地味な音でも、伝わるものは伝わる。発見も多い。数千万円のヴァイオリンの音は、コンサートホールで魅力を発揮するかもしれないけれども、ZOOMのローファイでは、良さが激減してしまう。ZOOM上のローファイ音質上では、下敷きの音色が数千万円のヴァイオリンと遜色なくなる可能性があり、面白い水平化現象が起きそうなのだ。

 

学生たちから、タイムラグがあるので、合奏が難しいとのコメントもあった。音楽に一体感を求めると、このタイムラグは致命的。しかし、音楽に一体感を求めないで、それぞれが独立していて、それぞれのキャラクターを際立ち、それが重なり合う音楽だったら、問題なく成立する。でも、一体感を求めた瞬間に、ZOOMのタイムラグは、論外になる。

 

最後には、スピーカービューにして、みんなで一斉に本の朗読をすると、勝手に一番声が大きいとZOOMが思わった人が表示されるので、意外なタイミングで意外な人に切り替わるカメラワークが面白い。また、言葉の断片が、意外なつながりで聞こえたりする。面白かった。

 

あっという間の3時間。発見がいっぱいあった。多数の人でネット上で会話をするために、音質を劣化させて情報量を少なくしたローファイ音質で、通る音と通らない音がああった。通る声と通らない声があった。かつて、ローファイなマイクに乗りやすいように、バスガイドの話し方が特殊化したり、ラジオアナウンサーの発声が特殊化したように、ZOOMのローファイ音質に特化した音色や音楽を生み出すことは可能だ。2020年にもなって、こんなローファイな音楽を試みるなんて、面白い体験だ。だいたい、今時、ステレオでなくってモノラルで音楽すること、なかなかない。

 

音楽に一体感を求めないというのも、はっきりした。一体感さえ捨てれば、各自が独立して、その組み合わせとしての合奏ができあがるのであれば、何の問題もなく音楽が可能になり得る。この際、潔く一体感ではない音楽を探求するチャンスなのだ。そこに特化して音楽をやろうと言いやすい環境にある。

 

ということで、オンライン授業、初体験。発見がいっぱいあった。

 

今日は、父の79歳の誕生日だったので、電話をすると、元気そうで何よりだった。ハッピーバースデイ、父さん!