野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

触れていないのに触れ合うこと

接触について

ウイルスの感染を防ぐため、濃厚接触を避けるのが良いとされる現在。物理的には触れ合っていない濃厚接触について考えている。

 

「分離」とか「分断」とか「隔離」という言葉は、もともとくっついていたものを、離すことを言う。でも、「こんなに離されているのに、全然離れていないよ」、と感じることもできる。それは、超能力?それとも、人間の想像力や感覚は、そんなことはやすやすと超えられる?

 

「触れていないのに触れて合うこと」について、色々、考えたり模索する機会になる。

 

そもそも、音楽は濃厚にセッションしても、実は、全くお互いに触れ合うことは(滅多に)ない。

 

さて、共同作曲、即興セッション、ワークショップ、アートプロジェクトなどは、これまで、人が集う場をつくることを大前提に行ってきた。その結果、物理的な距離が、常にネックになっていた。東京で行われるワークショップには、なかなか遠方から参加できないし、十和田で行われるワークショップに、なかなか京都から参加できないし、イギリスのトーキーで行われるワークショップに、ロンドンの人が参加することはない。ぼくは、旅人として、これらの場所を行き来していた。

 

今、これらのどの場所にも行けない状況になっている。どんな集い方ができるだろうか?オンラインで配信するのもいい。でも、オンラインでものづくりをしてみたい。今だからこそ、普段集ない人々が、イギリスから、ギリシアから、香港から、インドネシアから、カナダから、集って、オンラインで、共同作曲してみたい。ちょっと、そんなことを、始めてみたい、と思った。

 

そんな時に、ハードディスクの整理などをしていたら、2年前の楽譜が出てきて、びっくりした。「Apples in the Dark」という曲。曲と呼ぶのが申し訳ないくらいの内容なのに、ちゃんと書いてある。暗闇の中で、三人の人がりんごをかじる。空間的にばらけた場所で、かじった音が時々鳴る音の偶然を楽しむ、というだけの曲。でも、このバカバカしい曲を、オンラインでやってみたい、と思って、試しにfacebookに投稿してみた。そしたら、友人たち(イギリスから音楽家、イギリスからキュレーター、アメリカから音楽家)が、早速、反応してきてくれた。よりによって、アメリカと日本とイギリスで、ただ、りんごをかじるだけの音楽で共演するのか。でも、こんな時だからこそ、りんごをかじるのもいいかもしれない。