野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

先代広沢虎造はやっぱりすごい

引越の直後で、荷物を整理している。1993年の名古屋市美術館でのpou-fouのコンサートのチラシにも、「先代広沢虎造はすごい」と書いている。これは、1992年のpou-fouのCD「Bird Chase」のブックレットの中に書いた言葉で、「バッハは大好き」から始まって、最後が「先代広沢虎造はすごい」で終わっている。だから、今日の朝食のBGMは先代広沢虎造浪曲になった。歌も語りも間合いも声も、何もかもが素晴らしく聞き惚れる。

 

ヴィブラフォンのための新曲「相撲ノオト」にも、ヴィブラフォンの弾き語りを入れたいと思っていた。というのも、委嘱してくれたヴィブラフォン奏者の會田瑞樹くんが、声にもチャレンジしたいと要望があったからだ。ヴィブラフォン浪曲が合体し、さらにラップのように音韻連想していく語りの音楽ができてもいい。そのためのテキストを考えようと始めるが、気がつくと3曲目の「大一番」を作曲していて、語りの全くない別の音楽ができた。作ろうと思う曲ができずに、作るつもりのない曲ができてくる。本当に、作曲のプロセスとは、不思議なものだと、相変わらず思う。

 

苛立ちとか怒りとか、そうした感情は、なかなか文章や言葉にしにくいが、音楽や活動の原動力にはなり得るのかと思うので、大切にしたい。長年、作曲家として活動してきているが、自分の発信している音楽が、人々に届けられているだろうかと、試行錯誤して今にいたっている。そして、自分の音楽をうまく発信できていないという苛立ちや、自分の活動をうまく展開させられない苛立ち、さらには発信してもなかなか世界が変わっていかない苛立ちがあって、もう随分長い間、自分はいろいろ苛立っているのだなぁ、と思う。と同時に、ずっと長い間、感謝し続けている自分もいる。苛立ち、感謝し、試行錯誤し、悩み、憤り、喜び、今日もまた生きていくのだなぁ、と思う。そういう音楽を書き続けていきたい、と思う。