野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ミステリー・ファミリー・オーケストラ

アガサ・クリスティに興味がなかった。中学生時代は、推理小説をたくさん読んだし、テレビのサスペンスドラマをたくさん見たけれども、その後は興味をなくした。ただ、サスペンスドラマの劇音楽には、不協和音が多数使われているので、興味を持って聞いたし、将来、そういう音楽を作曲するかもと思って、10代を過ごしたが、そうした仕事をすることは決してなかった。

 

親友のヒュー・ナンキヴェルが偶々クリスティの生まれたトーキーという町に住んだために、「ミステリー音楽」に加担することになった。今でも、それほどクリスティの推理小説に興味は持てていない。ただ、音楽と推理の関係、謎と音楽の関係を手掛かりに、クリスティに接触している。

 

ハインリッヒ・ビーバーというバッハより少し年長の作曲家がいて、ビーバーが「ミステリー・ソナタ」という曲を書いている。クリスティとは関係ないが、ビーバーの音楽も「ミステリー音楽」のコンサートで取り上げる。

 

今日は、ファミリーオーケストラのワークショップ。「ミステリー音楽」をつくる。ぼくの親友のヒュー、そして、ヴァイオリニストのエマ、ドラマーのベン、それ以外には、小学生の女の子がヴァイオリンで参加し、その子のお母さん、おばあちゃんが参加。また、10代の頃にギャビン・ブライヤーズやブライヤン・イーノの「ポーツマスシンフォニア」に参加したという女性がサックスを持って来た。ウクレレを持った老紳士も参加。また、昨日の歌のワークショップに参加していた女性も来た。

 

最初に、即興で音を出した。最初の方は、ウクレレが印象的。最後の方は、鉄琴が印象的だったので、ぼくが「冒頭はウクレレ、最後は鉄琴」と提案し、それが昨日の合唱の冒頭につく序曲になった。続いて、老人ホームでお年寄りが叩いたリズムを元にした打楽器アンサンブルをやり、最後に、みんながいびきをかいて寝ることにした。バカバカしいようで効果的な音楽の展開。続いて、みんなでうがいで音楽をする。これも丁寧に音色の追求。やりたくなかったら、やらなくていい、というのに、みんなやる。老人ホームで生まれたアイディアで、馬に乗った人が彼女を迎えに来るシーンの音楽もつくった。馬から連想するリズムから、徐々に逸脱して、不思議な曲になっていく。そして、昨日の合唱のリハーサルの時に、スティーヴがマジックでマグカップを叩いていたが、これは、手元に適当な打楽器がなかったからだ。ところが、それをヒューが思い出して、みんなでマグカップをマジックで叩く。マグカップのオーケストラに、ヴァイオリン独奏を加えてみる。シュールだが面白い響き。

 

あとは、彼らが以前つくった「なぞなぞソング」を練習する。これが謎に満ちた素晴らしい曲。わかりやすいコード進行の前奏→なぞなぞの歌→13音音列の前衛的な響き→そして観客になぞなぞを聞く、という曲。ノンジャンルの面白い音楽。

 

公園でランチの後、午後は、ぼくが進行して、新たなミステリー音楽を創作。ぼくが指揮者をしていたので、「来週は、イタリアのコンサートに出ないで、イギリスに来て欲しい」と何度も言ってもらう。求められるのは嬉しいことだ。

 

ファミリー・オーケストラ・ワークショップって、家族で参加するから、ファミリー・オーケストラだと思っていた。もちろん、家族で参加している人もいる。でも、このオーケストラ自体が、家族のようになる。一つの大きな家族のよう。それが、とても美しいと思った。だから、一人でも、ファミリー・オーケストラに参加できる。そして、いろいろな人が家族に問題を抱えている。そして、家族を求めている。そうした人々の居場所にもなれるのが、ファミリー・オーケストラ。

 

ヒューは、「音楽理論」のワークショップを、Lucky 7 Clubというバーで最近始めた。大学とかじゃなく、学校じゃなく、でも、学びたい人が来て学べる場。今日のメンバーにも、来たい時はどうぞ、と言っていた。学べる場であると同時に、新しい居場所をつくることでもある。