野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ヤタラ拍子

今日は、即興のピアノを教える日。我が家にてレッスン。

 

ピアノを演奏する時、一つの鍵盤を演奏するとしても、その鍵盤の弦だけを鳴らすのではなく、他の弦にも共鳴させたりする。響板を響かせたり、さらには、部屋と共鳴させたりする。また、共演者の楽器の音と共鳴させたりする。つまり、自分だけだと十分響かなくても、一緒に共鳴してくれるものがあると、それで音が断然響いてくれたりする。逆に、他のものに振動を止められてしまい、響きが殺されることもある。だから、どうやって共鳴するか、楽器とか空間とか周囲とコミュニケートすることが、楽器の音に大きく関わったりする。そうして他力で、音が通るようになったりする。そんなことが体得できると、ずいぶん、楽器の音色が変わる。

 

生徒をバス停まで送っていくと、古本屋があいていて、古本屋に吸い込まれる。1993年の相撲を特集した「芸術新潮」があったり、雅楽の本があったり、中国伝統音楽に関する本があったりして、買い物して帰る。

 

さて、相撲と雅楽の話を少しだけさせて下さい。以前、新田一郎著「相撲の歴史」を読んでいて、

 

例えば作法の相撲人が勝つと左舞である「抜頭」が、右方が勝つと右舞である「納蘇利」が奏されるなど、儀式の節目節目にさまざまな舞楽が奏された

 

と書いてあり、雅楽の「抜頭」が、平安時代の相撲「相撲節会」で演奏されていたことは知っていた。ところが、「抜頭」を調べると、左舞ではなく、右舞であるようだった。その疑問に、今日買った東儀俊美著「雅楽縹渺」が答えていて、面白い。

 

舞楽の中で「抜頭」「還城楽」の二曲だけは同じ曲で左舞と右舞の両方に舞があるのである。これは、例えば「国風歌舞」の中の「東遊」のように左の舞人と右の舞人が同じ舞を一緒に舞うというのではなく、全く違う舞なのである。ただし、曲は同じなのだが拍子が違う。「抜頭」はもともと「早只拍子」といって、「四分の二と四分の四」が交代に現れる変拍子の曲で、左舞の「抜頭」はこの拍子で舞うが、右舞の「抜頭」は「八多良拍子」といって、早只拍子の四分の四の部分を四分の三に縮めた拍子で舞う。

 

なるほど、平安時代には、左方が勝った時に舞われた「抜頭」は、今では右方の舞としての方が有名らしい。しかも、それが2拍子+3拍子=5拍子になっている、と言う。実際にYouTubeでいろいろ動画を見てみると、右舞の方は確かに5拍子、左舞は6拍子。この変則的な5拍子は、面白いなぁ。「ヤタラ拍子」という名前も面白いなぁ。

 

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