野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ヘンリー・カウエルは共創を夢見たか

昨日、co-creation(共創)をうたう公演に参加した。複数の作曲家でco-creationすることは非常に珍しいが、ぼくは30年前から「共同作曲」を続けてきた。この共同作曲について、作曲家のヘンリー・カウエルが面白いことを書いているのを見つけた。

 

「CHARLES IVES and His Music」は、ヘンリー・カウエルとシドニー・カウエルが書いた本。アメリカの作曲家アイヴズ(1874-1954)についての本で、1955年に出版された。この本の最後の最後で、突然、共創の話が出てくる。

 

アイヴズに「ユニバース・シンフォニー」という未完成の大作がある。複数のオーケストラと合唱団が複数の山の上とかに配置される構想で、自然と人間性と精神性を表現しようという作品。彼の「交響曲第4番」でも、演奏不可能と思われていて、実現したのはアイヴズの死後だ。

 

この未完の大曲は、あまりに巨大で、あまりにインクルーシブだから、一人の人間で達成することは無理で、だから敢えて未完成にし、作曲家のコラボにするしかないとアイヴズは考えただろう、とカウエルは語っている。

It is unfinished, and intentionally so, as it is the culminating expression of Ives's 'music of Idea', - so gigantic, so inclusive and so exalted that he feels its complete realization is beyond any single man, and so has invited collaboration from various composers, the writer among them.

 

 ところが、ぼくが持っている本には、ヘンリー・カウエルの死後、1969年に再版した際のシドニー・カウエルのあとがきがついていた。アイヴズの死後、何百ページにわたる数多くのメモや楽譜のスケッチを整理する作業が延々と続いて、そうしているうちに、カウエルは体調もくずし、アイヴズの死から10年後には他界してしまう。

 

これを読んだ時に、カウエルは、アイヴズの未完成の遺作を、複数の作曲家のコラボ作品として完成させる野望を持っていたのではないか、と思った。

 

そして、アイヴズやカウエルの成し得なかった野望こそ、ぼくが人生をかけてやっていることだ、と思った。「オペラ双葉山」や「千住の1010人」でやろうと目指しているのは、そういうことだ。

 

本日は、自宅で過ごし、本を読んだり、楽器を奏でたり、家事をしたりして、過ごせたので、昨日読み終えた本の感想文になりました。