野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

革命は明日おこるーCCCD訪問

本日は、初めて香港島を脱出して、九龍半島へ上陸。MRTを乗り継ぎ、深水埗へ。おおっ、ここは凄い人混み。お祭りかと思うくらい人がいる。露店もいっぱい出ていて、しかも、インドネシア人がいっぱいいる。i-dArtの人から、働いているインドネシア人やフィリピン人が日曜日は、休みだから町に出てくると聞いていたが、広東語よりもインドネシア語が聞こえてくるくらいだ。

Jockey Club Creative Arts Centreに着き、「存在的尊厳 The Integrity of Being」という展覧会を見る。主に、写真が多い。CCCD (=Centre for Community Cultural Development)のデイビットが案内してくれる。ここは、もと工場で、複数のアート組織が入っている8階建てのビル。その中の一つが、CCCD。今やっている「Along the Edge Arts Festival」は、香港中文大學の大学院生が企画したもの。展覧会は4つのパートにわかれていて、「The Unseen Others」、「Home for Homeless」、「Unveiling the Veil: Muslim Women in Hong Kong」、「Embrace-Loving in Darkness」で、路上での様々な生活の写真、香港でのイスラム教徒への差別の問題を扱った映像やインスタレーション、ホームレスの人を題材にした絵画や写真、セクシャル・マイノリティをテーマにした映像やドローイングなどが展示されている。香港だけでなく、北京のアーティストなどの作品もあった。

CCCDのオフィスやワークショップルームや、展示の部屋などを案内してもらう。展示室は今週は他の団体に貸し出されていて、今は天安門事件をテーマにした中国の民主化に関する展示に使われていた。また、別の場所では、砂でアニメーションをつくる作家の展示と体験ワークショップコーナー。聴覚障がいをテーマにした展示で、小学生が聾をテーマに絵を描いたのが展示されている。

コミュニティ・オーケストラのコンサートがあるというので、聴きに行く。経緯が分からなかったが、アマチュアのオーケストラによるクラシック音楽のコンサート。第1ヴァイオリン3人、第2ヴァイオリン2人、ヴィオラ2人、チェロ4人、コントラバス2人という人数で、ヴァイオリンが少ない。フルート3人、クラリネット2人、オーボエ1人、ファゴット1人、ホルン2人のトランペット1人。演奏者全員が、バラバラの普段着。最初に、自由にみんなが写真をとっていい時間を儲けたが、その時は一切演奏しなかった。演奏を始めるにあたって、写真は終わり、と言う。どうせだったら、一曲くらい演奏してくれて、写真撮影OKにしても面白かったかもしれません。曲は、カルメンだったり、モーツァルトだったり、普通の有名曲。演奏の合間に話すトークで、クラシック音楽は、ショッピングモールのトイレで流れているとか、CMに使われているとか、そういう話しをいろいろしたところが特色。指揮者体験コーナーででてきた人が、3人とも笑いをとるのが巧い人で、パフォーマンスの映える人だった。香港人、ノリのいい人多いのでしょう。

その後、CCCDのモックとお茶。モックの名刺には、チーフ・エグゼクティブ、總幹事と書かれているので、ここの一番偉い人らしい。モックは、たんぽぽの家とも、最近、交流があるらしいし、イギリスのピート・モーザーを招いて、コミュニティ・ミュージックのワークショップを続けて、歌づくりなどのファシリテーターをこの10年でたくさん養成した、と言っていた。また、日本の黒テントや、パフォーマンスアートの霜田セイジと交流があるとも言っていた。話しをするうちに、だんだんモックのことがイメージできてくる。70年代に香港にマルクス主義からヒッピー文化まで、色々紹介する雑誌を編集し、さらにアメリカ、アジア、ヨーロッパなど各地を旅し、多くの思想やアートや文化を香港に紹介し、自身も様々なパフォーマンスや演劇を行った。その後、CCCDをはじめ様々な組織を立ち上げ、プロデューサー、キュレーター、オーガナイザーとして、奔走してきた。そういう偉大な先輩なのだ、ということは、理解できた。ぼくは、自分が子どもとの交流から音楽を学ぶ、ということで、イギリスに渡ったこと。「瓦の音楽」のこと。エイブルアート・オンステージのこと。今、香港でベリーニと何を始めているのか、ということ、などなどを、次々に語った。モックは、香港のコミュニティ・ミュージックでは、君のような実験的なことやってる人はいないねえ、と言う。ぼくは、つい熱く語り過ぎて、今いる福祉施設は、町や社会から隔離されて、独立したコミュニティになっている。だから、ぼくがレジデンスで、ずっと施設の中だけに籠っていてはいけないんだ。ぼくは、外部から来た人間だからこそ、施設の中と、施設の外を繋いで橋渡しできる。だから、東華三院に雇われて3ヶ月のレジデンスをするけれども、如何に東華三院の外でも活動するか、福祉分野の外で活動するか、繋がらないものを繋げるのが、ぼくの仕事だから。だから、次はベリーニも含めて、一緒に会いましょう、と勝手に言う。ぼくは、たった3ヶ月間しか香港にいない。でも、この3ヶ月のことは、別に施設のためだけにするんじゃない。香港のアートシーンのためだけにするんでもない。それは、もっともっと別のところにも、繋がっていく。そのために、あなたたちと、何度もこうやって、話しをしたり、意見交換をしたいんです、と言った。

施設の中にどっぷり浸かっていた時には、言葉にならなかったけれども、施設の外に出て来て、モックとデイビッドに向かって語ることで、また、自分が無意識に感じていたことが言葉になる。ああ、香港に来て10日で、ぼくはこう感じていたのか。そして、多分、10年間も施設の中でi-dArtを続けているベリーニも、きっとそう感じているに違いないと、急に確信した。

モックは次の約束があるというので、また近々会いましょうと言ってわかれ、デイヴィッドは、駅まで熱く語りながら、送ってくれた。香港の中に、まだまだ色々な人々の思惑が隠れている。この金融とビジネスの大都市香港の資本主義社会の極限の中で、隠れている文化の種子は、いつか芽を吹き出そうと準備している。デイビッドが言う。「モックさんの好きな言葉は、『革命は明日起きる』なんだよ」。 再会を約束し、電車を乗り継ぎ、施設に戻る。

ロンドンにいる打楽器奏者とネット通話で会議の後、沖縄、大分、東京の3地点とネット通話で会議。