野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

i-Bakeryと温水プール

ベリーニが熱が出てしまい体調が悪いので、お休みとのこと。朝9時45分に、副施設長のメイリンさんが、ぼくを施設案内に連れ出してくれる。金曜日に、施設案内はあったではないか。もう案内は要らないんじゃない?と思ったが、甘かった。

まず、入所者の人が働く仕事の説明。この施設では、いくつかの持続可能な会社を始めている。一つが、パン屋さん。施設の利用者がパンづくりの作業を覚えて、パンづくりをし、販売する。もう一つが、COOKEASYというお弁当屋さん。

http://cookeasy.tungwahcsd.org/

特に働く女性が増えたことで、仕事後の夕食としてのお弁当宅配サービスをする。これは、ネットで注文できるらしい。こちらの施設の入所者が、野菜を洗ったり、肉を切ったり、様々な作業をしている。いつも廊下を通る時に、いい匂いがするので、調理室だと思ったら、ここはお弁当屋さんだったのだ。見学させてもらう。また、別の部屋では、漢方の薬が苦いので、薬に添付するレーズンの袋詰めをしている。

i-dArtのアトリエでは、手品のワークショップが行われていた。こちらの知的障がいの施設に入所している人8名ほどに、サイコロを使った手品を実演し、みんなにもやってもらうワークショップ。少し、ここに滞在し、鍵ハモで手品のBGMをする。

先週は見なかったB棟の3階を訪ねる。この階には、100人以上が住んでいて、ここは、軽度の障がいの人が入所していて、数多くのアート活動などが行われていて、演劇も行われているらしい。フロアごとに分けられていることに、個人的には違和感を持つのだが、とりあえず、説明を聞いて、この複合施設の現状を理解し、自分が何をできるかを考えるきっかけにしたい、と思う。

B棟の1階は、「藝術綜合職業復康中心」と呼ばれる所で、200人近くの人々が、様々な仕事をしている。そのうちの半数は、施設の入所者、半分は通所の人だ。

続いて、理学療法に使う温水プール「温水治療池」を見学。車椅子でも入れるようにスロープがあり、湯温は33℃―36℃に設定されている。さすがに1000人の入所者がいる複合福祉施設温水プール完備。

巨大なランドリーに案内される。1000人分の洗濯物を扱うだけあって、凄い数の洗濯機と乾燥機がある。ここでの作業の一部も、施設の入所者が担当している。

続いて、巨大な調理室。ここでも、入所者の何人かが長靴を履いて働いていた。一人の男性は、金曜日のダンスワークショップで会った人だ。彼は、ぼくを見つけるなり、寄って来て、抱きついてきた。

エレベーターを待っていると、中国太鼓、書道、絵画など、施設での様々な活動に参加しているという張さんを紹介される。張さんは、車椅子の上に、ぼくのノートをうまく固定して、自分の名前を書いてくれた。

その後、D棟の4階、プリスカが施設長を務める施設に行く。ここでは、50歳以上の自閉症の人が60人暮らしている。毎日20−30人ほど対象のグループ活動をしているらしく、明日、ここで野村に音楽のワークショップをして欲しいとのこと。さっそく、この施設の持つ楽器を見せてもらう。各階ごとに違う施設があり、各施設ごとに楽器を持っている。ここの施設には、ハンドベル、小物パーカッション、中国太鼓などがあった。

これで午前の施設見学が終了。しかし、メイリン(副施設長)が、今日はランチを外に食べに行こう、と言うので、お昼に玄関で集合。施設のバスに乗って、出かける。トンネルを越えて、香港島の北部に移動。大都市の中心街に行く。どうして、こんなに遠出をするのだろう?着いたのは添馬公園(タマー公園)で、香港特別行政區政府總部の前だった。2年前の学生のデモ「雨傘運動」はこの前で起こった。すると、政府の建物のすぐ裏に、i-Bakery Gallery Caféがあった。

http://ibakery.tungwahcsd.org/cafe/

これも、我が施設が経営するパン屋カフェで、パンは施設の入所者がつくり、施設の入所者がお店のウエイターとして働いている。メイリンは、ここの店の中とか、店の外でもコンサートができるし、やって欲しいと言う。香港社会は、障がい者を施設など一部の場所に隔離しようとするが、こうやって町の中にお洒落なパン屋カフェを営業し、排除しようとする社会に対して、存在を示す一つの方法だ。日本センチュリー交響楽団との就労支援プログラムThe Workで、大阪駅前でパフォーマンスをしたことも、やっぱり自分たちの存在(若者、オーケストラ)を社会にアピールしたい、という思いであっただろうことを、思い起こす。

ということで、今日のランチも、会場下見であり、施設見学であった。メイリンにベリーニのことを尋ねる。彼女は、もう10年以上もうちの施設で働いているのよ。アーティストというのは、フリーランスになりたがるから、きっと2、3年で辞めるだろうと思ったけれど、とメイリンさん。ここは、いろんな活動ができるし、彼女にとっても貴重な場になっているのだろう。と同時に、ベリーニが台湾に6ヶ月アーティスト・イン・レジデンスに行ったりできるのも、メイリンというボスがいるからだろう。メイリンは、ベリーニを施設に縛り付けようとはしていない。入所者に対して、ケアをしつつも自立を支援するように、アーティストが自立していくことは、決して悪いことではないと、メイリンは思っているように見えた。

午後、施設に戻って、理学療法士のハリーとの打ち合わせ。ベリーニが切望する温水プールでのワークショップに向けて、ハリーから温水プールでの規則、理学療法の目的などの説明を受ける。4月末には、一度、温水プールでの理学療法を見学/体験させてもらい、6月―7月にかけて、温水プールでのワークショップやパフォーマンスを実現させる流れ。小日山拓也さんの湯笛を、香港で流行らせる機会になるかもしれないな、と思う。

i-dArtのオフィスに戻り、スタッフのイェンとかと雑談。ベリーニの机は明らかに変で、机の上に台を置いて、その上にパソコンのキーボードやパソコンが置いてある。こんな高いところにパソコンがあって、どうするつもりなんだろう、とイェンに聞くと、彼女は立ってパソコンするのよ、とのこと。何のために立ってパソコン作業をするのか、分からないが、彼女がユニークな人物であることは、これだけでも分かる。そういう変わった人に招いてもらえたことは、光栄だ。

美術のアトリエでは、美術家のディックがいる。ロンドンに何年か住んでいたらしく、今はここで週3回アートを教えに来ているとのこと。

明日のワークショップで使うための楽器を、少し確認したいので、楽器のある部屋に入りたいのだが、今はプレイバックシアターのワークショップをしているので、入れないとのこと。だが、いろいろ主張したら、そーっと入って、音を出さなければ良い、とのことなので、必要そうな楽器を取り出して、美術スタジオで、音出しチェック。

その後、メイリンが、ホールに中国太鼓があるから、見せてくれるとのことで、ホールに行く。かなり大きな中国太鼓がいっぱいあり、木曜日と金曜日の夕方に中国太鼓のグループが活動しているとのこと。

部屋で小休止の後、美術スタジオに行くと、美術ワークショップがやっていた。10人ほどの人が、いろいろな牛を描いていた。