野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

メイの作文ワークショップ

台湾の南部、高雄のメイのお宅に滞在中。BGMに流れている音楽が、中国語ではない母音の多い歌詞。なんでも、台東に住むアミ族のアーティストで、アミ族の言葉で歌っているポップス。何かの賞をとりCDデビューして、爆発的にヒットしたらしい。歌詞カードを見ると、中国語の訳がついている。

「この歌を聴いて、台湾人は意味が分かる?」
と尋ねると、
「分からないけれど、みんな雰囲気が好きで聴いている」
とメイ。意味の分からない歌を聴ける人達だ。

My Carefree Life

My Carefree Life

妻が、メイの行う作文のワークショップのやり方について、質問している。これが、本当に面白かった。8〜10人程度のグループ。メイが書き出しの一文を設定する。例えば、「私は夢を見た。」など。そして、制限時間30分で、この続きを書く。決して手を止めないで、書き続ける。書いている時に、文法がおかしいかどうか、気にしない。自分の書いていることを、決して批評しない。ただただ、内容の辻褄があっていなくても、とにかく書き続ける。30分で最後まで完結しなくて良いから、書き続ける。美しい文章にする必要はないから、手を止めずに書き続ける。終わったら、一人ずつ順番に自分の書いた内容を読む。声に出して読むのが嫌な場合は、黙読でもよい。ただ、これは、最初は恥ずかしくて黙読していた人も、いずれ全員、声に出して読むようになる。それを他の人は黙って聞く。講師であるメイも含めて、誰もその内容について批評しない。コメントしない。ただ聞く。この内容を、毎週継続する。

とにかく、否定をしない。考えがまとまっていなくても、手を動かし続ける、というのが非常に面白かった。そして、メイはこのワークショップの受講者と、友達になっていって、高雄でのネットワークが広がっている、という。

あとは、台湾の政治の話も聞いた。現在、台湾は國民党政権で、國民党は中国との流通/交流を積極的に行い、さらには、台湾と中国の統一を目指す方向に強行に動いている。4月に学生達が議会を占拠したのも、台湾にとって不利な条件を強行に進める現政権の暴走を、必死にストップしようとしたのだろう。彼女によれば、高雄市だけが民進党で、高雄市の政策は全然違うのだ、という。

ぼくは50歳になるまでに、中国語が喋れるようになることと、台湾に数ヶ月滞在することを、自分の目標と掲げることにした。メイと別れて、妻と二人台南を目指した。素食の寿司を駅弁屋さんで購入し、ローカル線で台南へ。45分ほど。大阪と京都のような距離感。ホテルにチェックインの後、市バスで安平地区へ。88番のバスが、市内を随分迂回しながら安平地区を目指すので、町の色々な風景を見られて楽しかった。途中は埋め立て地なのか、ポートアイランドのような感じで、起伏はないし、道はまっすぐ。橋を渡り安平地区に入ると、狭く曲がった道で風景は一変。安平樹屋を見学。屋根の上までマングローブの木に覆われてしまった家。凄いパワー。メイの「樹的可能」を思い出す。

台湾スイーツを楽しみ、裏道を散歩し、バスに乗ろうとバス停に立っていると、台湾人のおばちゃんが、「ここはバス来ないよ」と中国語で言っている模様。しかし、言葉がわからず、何を言っているか分からなかったら、ついにはおばちゃん、正しいバス停の場所まで連れて来てくれた。感謝。

バスを途中で下車。適当に歩いて行く中で、妻が気になると言った店で夕食。入ってみると、オーガニック野菜だけで調理したベジタリアン食の店で、昨年オープンしたばかり。店内でオーガニック野菜も販売しており、野菜の味も本当に美味しかった。店内にあったオーガニック農業に関する本なども読む。台湾でここ15年の間に、無農薬栽培の畑が、急激に増えていることを示すデータがあった。面積で100倍以上に膨れ上がっているようだ。中国との海峡両岸サービス貿易協定が実施されてしまうと、こうした台湾人が築いてきた地道な産業を守っていくことができるのだろうか。

近くにマニアックなカフェがある。妻がコーヒーを飲みたいと言うので入る。キース・ジャレットのケルンコンサートが2階から降り注ぐ。コーヒー屋のおやじは寡黙で、音楽好き。カウンターにいる20代くらいの若い客が、中古のLPレコードを店主に見せて語り合っている。どうしてコーヒー屋の店主というのは、レコードが好きな趣味人なのか。日本語が堪能なおかみさんが、語り始める。昨年、日本にコーヒーの研修で4週間行ったこと。京都に住み、Hifiカフェなど、京都のコーヒーを飲みまくっていたこと、100000tで中古レコードを買いあさったこと、などを聞く。台南で京都の話をするとは思っていなかった。店主は、自分で真空管アンプを制作して、音楽を聴いているとのこと。帰り際、寡黙な店主が一言「おおきに」。ずっこけそうになった。また来よう、台南。