野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

林加奈さんのインタビュー

林加奈ちゃんが、ガムラン・ピクニックの即興について、いろいろ面白い感想を言ってくれたので、ここで、インタビューを掲載することにしました。

林  ワンデーガムラン・ピクニックでの佐久間+鈴木+寺内+野村の即興は、とても興味深かったです。
野村 どういう点で?
林  完成度という点では、もっと高いものが今後あり得ると思うけど、あの場のでき方は、私がいつもたどり着きたいと思うことの一つを実現していたと思います。
野村 それは、どういうこと?
林  4人の即興のやり方・タイプが、違っていて面白い。でも、それだけじゃなく、4人ともが、他の人のやり方を否定していなかった。関係の作り方が、複雑というか豊かだったですね。
野村 複雑だといいの?
林  面白いんだよね。対決ものとか、シンプルで分かりやすい関係が悪いっていうわけじゃないんです。時代劇とかも面白い。でも、もっともっと、複雑な多様な、わびさびというか・・・。地球上にもっと色々な種類の喜び・楽しみがあるだろうと思うんです。そういう境地に入っていると思いました。立体化した即興だと思った。場を立体的に味わう。
野村 例えば、佐久間さんが他の共演者と関わるよりも、客席の子どもにちょっかいを出すことが多く、そうではなく、ソロダンスをしっかり見せるべきとか、他の音楽家に対峙すべきだ、という声もありましたが。
林  それは、違うと私は思います。佐久間さんは、ソロダンスでも存在できるし、他の音楽家と対峙することもできる人で、そこから逃避しているとは思いません。佐久間さんは新たなバランスに挑んでいたと、感じました。そして、それが面白い形に出てきていたなと思います。

林  それから、リアリティ。鈴木さんは、交通事故で首を骨折し、コルセットを巻いていた。そのコルセットが即興で大活躍しましたね。
野村 子どもが乱入することも、コルセット同様、リアリティでしたか。
林  その場にリアルに存在することを、ないことにしない。骨折しているのも事実で、コルセットをするように医者にも言われているし、実際にあの場に子どもがいるのも事実。しかも、その子どもが、ワークショップでホールに慣れ親しんでいる上に、あの空間がフラットな場であったこともあり、乱入のチャンスをうかがっていた、これも事実。
野村 そして、22時完全退館するために、即興は絶対に30分以上やらないように、とぼくだけが舞台監督から念を押されていたのも、事実。
林  そうした事実を、すべてなかったことにしないことで、フィクションではなく、その場にしかできないものが生まれてくる。
野村 楽しい、美しい、面白い、見事な流れ、などと同時に、腹立たしい、退屈、醜い、滞る、などの状況も生まれてくる。小暮さん流に言えば、見たいものと見たくないもののどちらもが、見えてくる。
林  それを、ただ、即興にはすべてがあるから、何でもあり、としてしまうと、違う。ここを大前提にしつつ、その中で、自分が目指すクオリティを各自が極限まで追求するのが、いいと思う。

林  4人が対等な関係だったので、互いに信頼できているのが、よい。
野村 だから、ぼくは結構、何もせずに傍観している時間がありました。
林  その上、みんなして面白がっている。

野村 寺内さん、鈴木さんについて、いかがでした?まず、寺内さんについて。
林  もっと前面に出ることもできる人なのに、じっくり居を構えて、ここぞという時に、おいしいところをかっさらうという立ち位置にしていた。
野村 寺内くんは、前日のリハでは、自分の持ちネタを繰り出す感じが多かったですが、本番では、もっと抑制して、場との関係性の中で演じていたところが、さすがと思いました。漠然とした言い方ですが、とにかくいい音を出していた。では、鈴木さんは、どうでした?
林  私は近いものを感じて、共感しました(的外れだったら、ごめんなさい)。
野村 鈴木さんのパフォーマンスは、終始一貫して、ぼくの予想を裏切るんです。それは、ぼくの裏をかくとかではなく、ぼくのセンスにはないセンスで切り込んでくる。だから、この場面で、ぼくだったら絶対にしないことで、切り込んでくる。それが独特で面白い。
林  あの場のリアル感に、向き合っているなぁ、と、彼の選択する音や行動に、すごくセンスがいいと感じました。

林  それから、野村さんは、暴れるときはものすごく暴れるし、前面に出る人なのに、敢えて黒幕的に場をいじっていましたね。
野村 それは、ぼくと佐久間くんは、長い歴史があって、関係も深いので、ぼくは佐久間くんとあまり関係をとらずに、鈴木くん、寺内くんと佐久間くんが、どう関わって何が起こってくるかに立会いながら、それを見届ける立会人のような位置でいようと思いました。

野村 ぼく自身としては、とてもいい即興ができたとも思っていませんが、いつまでも忘れられない即興になったようです。実際、このことについて、公演後も何人もの人と議論をしました。そういう意味でも、一石が投じられたかな、と思います。最後に、もう少し否定的なこともありませんか?
林  一番最初に言ったことですが、もっとクオリティがあげられると思います。特に後半子どもが入ってから、やっぱり間延びした。ある意味、子どもに押されて間延びしたようにも見えた。
野村 そうですね。30分で必ず終わるようにと念を押されていたので、子どもが入ってきた時に、何かそこに切り込んでいくことはできませんでした。本当はやりたかったのですが、そうすると、45分の上演時間になることが分かっていたので、あとのプログラムに本当に支障が出てしまうので。時間があるなら、そういう展開もできたんですが、敢えて油はそそがないことにしました。では、今回の公演を通して見えた今後の可能性について、これからどういう展開を期待するかについて、一言お願いします。
林  今起こっていることが、お客さんの多くが耳ではなく目で追ってしまうことが多い。目で見えるところが面白いからなんだけど。
野村 音は相当面白かったよね。
林  そうなんですが、目で見えることに意識がいってしまうお客さんが多分多いのがもったいない。
野村 視覚と聴覚がバランスよく鑑賞してもらえるといいのですよね。確かに、桃太郎の第4場をロビーで音だけで聴いた人が、音だけだと、すごく想像力が広がる、と言っていた。これは、ダンスが悪いという意味ではなく、鑑賞する人が見ることのウエイトが、聴くことよりも、相当大きいんだ、ということですね。
林  そのために、どういうアプローチをすればいいかが課題だと思います。
野村 ありがとうございました。