野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

アナンとバンプ

アナンさんに電話しても留守電なので、幸弘さんと二人で近所をブラブラする。裏道にどんどん入って行って、そのうち、横幅1m程度の細い道を通り抜け、人々の生活の真ん中を入り込んで行ったら、犬がゴロゴロ寝転がっている路地裏に出た。
「ここ、雰囲気いいね。」
と幸弘さん。ひとまず、鍵ハモを取り出して、即興で吹き始める。犬は警戒しながら興味を持った微妙な距離感。そんなところに、物売りの声。フルーツを売りに来ている。色んな音が聞こえて来る。路地裏に楽器の音を放ったことで、生活の音が立体的に浮かび上がって来る感じだ。
「こんな感じで、バンコクの裏道で、いっぱいロケしてもいいかもね。手軽でいいですね。」
と、またまた歩いて行って、屋台の並ぶ路地で、演奏。その後、屋台で昼ご飯にする。
麺がとっても美味しく、30バーツってことは、90円弱かぁ。日本で言うと、立ち食いうどんの感覚だなぁ。

ホテルに戻ると、アナンさんから伝言が残っていたので、さっそく電話する。アナンさんは、タイの伝統音楽の演奏家で、民族音楽学者で、マヒドン大学の先生。6時まで大学で教えているし、7時半くらいに、ホテルを訪ねて来てくれる、とのこと。

それで、午後は、幸弘さんとダラダラ雑談した。色々話したが、小説を書く話が面白かった。というのも、石村真紀さんが即興演奏について人に説明する方法を模索しているけど、それって、文章で説明的に語るよりも、小説にしてしまった方が分かりやすいんじゃないか、って思ったからだ。幸弘さんは、昨年イタリアに住んでいる間に、7本の小説を書いたらしい。

夜8時、アナンがやって来た。さっそく、幸弘さんと作った映像を見てもらう。「武家屋敷の音楽」(2002)を見せる。非常に喜んでくれた。さっそく、携帯電話で教え子を呼び出すアナン。電話で呼び出されたバンプも程なく到着。バンプはタイの伝統楽器の演奏家で、昨日までイギリスツアーに行っていたらしい。
「じゃあ、イギリス帰りってことで、イギリスで撮った映像を見てもらいましょう。」
と、バーミンガムで作った「ウマとの音楽」(2004)を見てもらう。アナンは、映像を見ている途中に、別の教え子と携帯で電話して、明日の段取りまでつけてしまう。
「明日は、朝、作曲家の学生が迎えに来るから、その車でマヒドン大学まで来てもらって、それで、午前中は作曲の学生に、今日見たビデオを見せてもらったり、レクチャーしてもらったり、していい?それで、午後は、タイ音楽専攻の学生と即興演奏でもしようか。」
つまり、ちょっとの間に、明日の授業の段取りを作曲の先生と相談し、車の送迎の手配もしちゃった、ってこと。1週間先の予定を決めないタイ人のノリが分かって来た。予定を決めない代わりに、機動力がある。基本的に即興の国なんだ。

すっかりお腹がすいたので、ご飯を食べに行く。すると、なんとバンプが全員分をおごってくれた。アナンが先生で、バンプが教え子なのに!ぼくやアナンが、
「払うよ」
と言っても、
「いいよ、いいよ。」
バンプ。さてさて、明日は、いよいよマヒドン大学だ。