野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

leading or following? ファミリーオーケストラ・ワークショップ

本日は、日本センチュリー交響楽団の6名の音楽家と、キーボーディスト/作曲家の鈴木潤さんと、約50名(約35名の子どもと約15名の親)と「家族でオーケストラ」というワークショップを行いました。色々な意味で、画期的なことができて、大きな一歩になったと思います。

今日、何が画期的だったか、と言うと、オーケストラの音楽家がワークショップをリード(先導)するのではなく、まして、野村や鈴木潤さんがリード(先導)するのではなく、子どもたちを中心とする参加者の発想にフォロー(追随)していきながら、音楽性を高めていくために全力を注いだ、ということです。これは、ありそうで、なかなかできないことです。そして、そのことが、大変、オーケストラ的であり、オーケストラの可能性を見た、と感じました。

オーケストラの楽団員の方々は、普段から、指揮者の意向をくんで、特には、指揮者の意図を察して、指揮者の目指すイメージをフォローするべく、自身の音楽的センスや技術を総動員していきます。指揮者の意向を尊重し、短時間のリハーサルや本番の中で瞬時に判断し、その意向を最大限に実現しようとされるのです。そう考えると、音楽創造ワークショップで、自らが先導(リード)せずに、参加者のアイディアを尊重し、それにのっかっていく(フォローする)という資質を、持ち合わせている方々なのです。

とぼくが感動するほど、オーケストラの楽団員の方々は、わかりやすい正解に誘導しようとせずに、参加者と一緒に考えたり、試行錯誤する時間を楽しみ、奇天烈なアイディアを受け入れ、それを起点に音楽をする、という希有なことを成し遂げました。

今日、ぼくがやった最大の仕事は、本日のワークショップに名乗りをあげて下さった7名の音楽家のために、譜面を書いたことです。「相撲聞序曲」を、ヴァイオリン2、クラリネット、鍵ハモ、バストロンボーン、シロフォン、打楽器、ピアノの8重奏にアレンジして、ワークショップの冒頭で、8人で演奏しました。この演奏も、皆さん初見とは思えない素晴らしい演奏でした(ワークショップ開始前の30分弱の時間で、何度か合わせして、その様子も早めに着いたワークショップ参加者は見学できてしまうという公開リハーサルになって、お得だったのです)。

このことの意味は、いろいろあります。プロのアンサンブルを聴いてもらいたい、という気持ちもあります。こんな凄いプロの音楽家の人と一緒に、音で遊ぶんだよー、という意味。それと同時に、プロの音楽家としては、最初に自分たちの得意のフィールドで、譜面を演奏する姿を見せて、こちらが本業のプロの技で、その後のワークショップでは、普段やり慣れない即興的な音楽作りを皆さんと楽しみますよ、という立ち位置を見せる、という意味もあります。また、五線譜の音楽をやることと、即興で譜面なしで音楽をすることは、お互い相容れないわけではない、ということも訴えられるか、と思います。とにかく、今後も、毎回、ワークショップの度に、違った楽器の組み合わせの演奏家が集うはずなのですが、毎回、何らかの譜面を書いていくことを、野村のノルマにしたい、と思っております。

今後の課題としては、ワークショップを見学した方々が結構おられたのですが、その方々にワークショップの中で起こっていたことが、伝わったかなぁ、というのが、懸念事項の一つではあります。見学の方を受け入れるのも、こうした活動を広げていくための大切な要素だと思うのですが、ある意味、「ワークショップの鑑賞の仕方」も、ガイドがあると良いのかもしれません。見学者のための「ワークショップ見学の手引き」みたいなものを作成する。例えば、

Q: チューニングを行わないのはなぜですか?
A: オーケストラでは、チューニングは非常に重要なのです。しかし、音楽創造のワークショップでは、ピッチやハーモニーに特化せずに、できるだけ様々な方に参加して欲しいので、ニュアンスや表情などにウエイトを置いて進めています。その結果、時には、現代音楽のような無調なサウンドになったりもしますが、自分たちのイメージで演奏したり、創造/想像したりすることを大切にしています。

Q: 冒頭で、アイスブレークとなるゲームなどをして、ほぐしたりしないのは、なぜですか?
A: 緊張している状態というのは、警戒しているため、五感が最大限に稼働していることが多いと考えます。そうした緊張した状態で、いきなり即興で音を出したりすることも、貴重な体験と考えます。

のようなものを、もっと色々な項目でつくっていって、見学する人のための読み物のようなものが作成できたら良いのかもしれません。誰かにインタビューしてもらって、それをまとめられたらいいのかもしれません。

ちなみに、本日のワークショップは、こんな内容でした。

10:00−10:30 プロ音楽家でのリハーサル、野村誠作曲「相撲聞序曲」(早く着いた人は見学可)
10:30−10:40 プロ音楽家の演奏を聴く「相撲聞序曲」
10:40−10:55 全員で音を出してみる「せーの」と「1234」
10:55−11:00 ティンパニとギターの音量の違いを楽しむ
11:00−11:30 言葉から曲づくり?「あんこはおいしいよ」のリズムで 弦、木管金管、鍵ハモ、打楽器の5チームで発表。
11:30−12:15 言葉から曲づくり? 自由課題 弦「ウォルフガング・アマデウスモーツァルト」、管「北海道 海ぞいプール 夏祭り」、鍵ハモ「じゃーん かーん バナナが食べたいよ りんごだよ」、打「ちょうちょ かわいい」
13:15−13:30 グループ分けなど 
13:30−14:00 チャイコフスキーの「イタリア奇想曲」の4つのメロディーに、4グループが歌詞をつけて、そこから創作。
14:00−14:30 4グループのシェアリングと合同でのリハーサル
14:30−15:00 レコーディングして、おわり


それにしても、お盆のこの時期、ご参加いただき、楽団員の方々にも大感謝です。ありがとうございました。また、ワークショップ参加の親子の皆さん、また、次回開催する時には、さらにグレードアップして充実した内容を目指しますので、どうかよろしくお願いいたします。鈴木潤さん、久しぶりにワークショップをご一緒できて、楽しい時間をありがとうございました。