野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

「Beethoven 250」作曲開始

アコーディオンとピアノのための新曲「Beethoven 250」の作曲に着手。そもそも、ベートーヴェンを題材に作曲する予定ではなかった。そもそも当初は、3月28日の日本センチュリー交響楽団の演奏会で、ベートーヴェンの「田園」を演奏する予定だったらしく、柿塚さんからコンサートのプレイベントで、野村の「新潟組曲ー水と土のこどもたち」が新潟の福島潟の風景を題材にしているので、ベートーヴェンの「田園」と比較して面白いのでは、との依頼があったのだ。

 

ところが、その後、オーケストラのコンサートが「田園」ではなく、ベートーヴェンの「交響曲7番」に変更になったため、「新潟組曲」をやる意味がなくなってしまった。そこで、「交響曲7番」を題材にした新曲をつくる羽目に陥り、ベートーヴェン生誕250年なので、「Beethoven 250」という新曲を作曲することになった。

 

というわけで、「交響曲7番」の主題に基づく変奏曲を作ろうと作業を始めるが、だか気が乗らない。そもそも、ベートーヴェンの7番に、そこまで思い入れもなく、気持ちが入らない。なんでベートーヴェンの生誕250年を祝す曲を作曲するのか。交響曲7番に関する曲を作曲するのか。なかなか納得できる方向性が見出せないまま、作曲は始まらず。

 

ということで、机に向かったり、ピアノに向かったりしているうちに、何時間もすぎる。いい加減、方向性も定まらないのにも飽きてきたので、とりあえず、なんでもいいから書くか、と書き始めたら、変奏曲でもなんでもなく、交響曲第7番の第1楽章のメロディーをアレンジしていくうちに、だんだんベートーヴェンの音楽じゃなく、野村誠の音楽になり始めた。そんな風に、「 Beethoven 250」は始まった。せっかくベートーヴェンを題材にするので、いろいろ遊ぼうと思った。

 

 

 

輪島VS北の湖

日帰りで名古屋の実家へ。坂の上の家。久しぶりの坂道。父や母の昔話を聞く。

 

京都に戻る。JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)が、2016年12月にさいたまトリエンナーレで行った一ノ矢さんとの対談のテープ起こし原稿を読み、相撲への熱が盛り上がり、気がつくと、輪島vs北の湖の名勝負動画を見入ってしまう。横綱同士の取組で、水入りの大一番が何度もある。それにしても、何度も同じ体勢になって、大相撲になる。型の違うライバルの共演。

 

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乱舞の中世

引越から2ヶ月弱、徐々に本棚に本が並べられるようになってきている。沖本幸子著「乱舞の中世」という本も、ようやく段ボール箱から本棚に移動。パラパラとめくり、180ページの以下の一節が目に止まる。

 

 そもそも乱舞がとても中世的だと感じるのは、「乱」という言葉やその熱狂性ばかりではない。即興というものに大きな力点を置いていたことも重要だ。決まった振りをなぞるのではなく、どこかに、その人その場の個性が投入され、その場限りの高揚感を生み出していく‥‥‥。白拍子舞のセメや宗徒たちの乱舞にはそれが象徴的に現れていたが、そうした瞬間的な力の凝縮は、能をはじめ、中世文化がもっとも得意にしたところである。

 

182ページには、

 

 乱舞の前の今様の時代には声、しかも、天に澄みのぼってゆくような細く高い美声が重視されていた。乱舞の時代になると、天から地へと、その到達点が180度転換し、しかも強く高らかに足を踏み鳴らすことに力点が置かれていく。

 思えば、あらゆる価値が転倒し乱れてゆく時代の中で、大地の荒ぶるエネルギーを自らの身体を通して転換させていくような舞が好まれたのも当然かもしれない。

 

その時代に生きたわけではないのに、まるでタイムマシーンで見てきたかのような文章だ。そして、なんだか現代の、ぼくたちがやっている現場のことを描いているかのような文章でもある。

 

1月15日に、ファリャの「7つのスペイン民謡より」について解説するために、ファリャの譜面を読んでいる。フラメンコのリズムが出てきて、昔、インドネシアでスペイン人のアンヘラからフラメンコを教えてもらったことを思い出す。

 

5月31日に開催する「千住の1010人 in 2020年」が、2020年の乱舞になる予感。

 

 

 

世界のしょうない音楽、今年は筑前琵琶も!

本日は、今年度の「世界のしょうない音楽ワークショップ」の第1回。もともと、豊中市と日本センチュリー交響楽団で2014年度に開始したコミュニティ音楽プログラムで、地元NPOのしょうないREKが尽力して実現。2年目の2015年から、大阪音大民族音楽学の井口淳子先生の協力を得て以来、大阪音大の先生方が次々にボランティアで関わってくださるようになった奇跡の企画。今では、邦楽の菊武先生、バリガムランの小林先生、シタールの田中先生、ヴィオラ・ダ・ガンバの上田先生、音楽教育の長谷川先生などが参加されている。今回は、縁あって、筑前琵琶の川村旭芳さんも参加。

 

筑前琵琶奏者・川村旭芳オフィシャルサイト

 

日本センチュリー交響楽団からは、ノムラとジャレオとサクマの「問題行動ショー」に出演した巌埼さん(ヴァイオリン)、吉岡さん(クラリネット)、ヒューとノムラの「ホエールトーン・オペラ」で大活躍の森さん(ヴィオラ)、末永さん(チェロ)、そして、リサイタルでJACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)の相撲に関する新作を世界初演した小川さん(ヴァイオリン)というメンバーが結集。

 

ワークショップ参加者は40名で、そのうちの18名が子ども。1歳から67歳までのメンバー。本日は楽器体験。箏、三味線、尺八、琵琶、シタールガムラン、打楽器、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバクラリネットが体験できる。三味線を触ってみた直後に、チェロをやってみるなんて、ワークショップなかなかない。

 

そして、今日の最後には、全員で音を出した。筑前琵琶の川村さんに「祇園精舎」を歌ってもらい、それと楽器演奏を交互にやる合奏。歌と楽器が交互に出ると、なかなか味わい深い。

 

これからどんな音楽に発展していくか、非常に楽しみ。

 

ちなみに、過去の「世界のしょうない音楽祭」の動画はこちら。

 

2018年度の「青少年のためのバリバリ管弦楽入門」は、ブリテンの「管弦楽入門」とバリガムランを特集

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2017年度の「越後獅子コンチェルト」は、地歌の「越後獅子」とのコラボ

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2016年度の「日本センチュリー交響楽団のテーマ」

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牛がゲップして温暖化する時代を生きる

タイのアナン・ナルコンから、「千住の1010人 in 2020年」のプランが届く。アナンは2014年の時には、「Super Fisherman」を作曲。その時に、巨大な人形を作って、パレードするアイディアを出してきたが、今回も巨大な人形の案が出てきた。今度は、巨大な人形が指揮者になる案。

 

https://www.youtube.com/watch?v=8tWu43Hc3Ng

 

日本センチュリー交響楽団の音楽ワークショップ・ハンドブックのための原稿執筆。昨日、潤さんと原稿を整理して、2−7章の原稿はメールしたのだが、8章の原稿だけ、ちょっと厄介そうだったので、今日にまわした。潤さんの原稿に対して、野村が付け加えたいことも多くあるので、潤さんと野村の対談の形に、全部リライトしてみる。

 

夜は、パリ在住のイタリア人で、Creative Mobilitiesを主宰するValeria Marcolinと再会。居酒屋で語り合う。乗り物(飛行機、電車、バス、車、など)と創造性を重ね合わせるプロジェクト。「千住の1010人 in 2020年」では、船や電車などでも演奏する予定なので、彼女のプロジェクトともリンクできる。また、アフリカの貧困地域に出向いて、アーティストや建築家を派遣してのプロジェクトもしていて、ぼくをアフリカに連れて行って音楽をしようと目論んでいる。

 

Home - Creative Mobilities

 

環境のこと、経済のこと、文化のこと、これら全てを持続可能にしていくことを考えているという彼女。ぼくのイギリスの友人には、地球温暖化に寄与するから、もう飛行機には乗らない、と言っている人もいる、と聞く。彼女は、昨年、毎月最低1回はアフリカに飛んでいた。彼女は、飛行機に乗ることで地球温暖化にマイナスな面もあるが、逆に彼女が活動することで環境破壊を止めるための活動もあるので、全体で相殺されてマイナスにならないようにしていくのが持続可能ということだ、と言った。そして、地球温暖化には、飛行機よりも、自動車の排気ガスよりも、牛のメタンガスが一番悪いと言われているのを知っているか?と言った。だから、牛肉を食べるのをやめることで、地球温暖化を止めることができる、と。

 

こういう情報のリテラシーは、本当に難しい。ネット上に情報は溢れているし、環境破壊や地球温暖化について、諸説あるし、学者が常に正しいことを言っているとも限らない。だから、短絡的に牛を育てることが一番温暖化につながっていると、結論づけようとは思わない。ベジタリアン地球温暖化に関する作品を何曲も作っているエマ・ウェルトンが、「でも、わたしチーズの味が好きで、チーズだけはやめられないの」と言った時、チーズと地球温暖化に何が関係あるのだろうと思ったけれども、牛のゲップが地球温暖化なのか。2020年って、牛のゲップと地球温暖化を議論する本当に近未来のような時代なんだなぁ、と思い、そのような時代に生き方/暮らし方を模索する機会を与えられていることを、なんだか有り難く思った。そして、ヴァレリアとアフリカにも行ってみようと思った。

 

それにしても、1月なのに随分暖かい。たまたまなのか、それとも地球温暖化なのか。

 

 

 

 

 

鈴木潤さんとワークショップハンドブックを執筆中

鈴木潤さんと、原稿執筆ミーティング。お互いの原稿を照らし合わせつつ、これから作るワークショップ・ハンドブックの構成を考えつつ、互いにツッコミを入れながら、楽しく執筆。

 

ワークショップの事前に環境をどう整えるかの章、コミュニケーションに関するエピソード満載の章、オーケストラ的を語る章、即興から作曲への章、リズムやグルーブに関する章、ピッチや無調など耳に関する章、その他いろいろ書いてある章、など。

 

これ以外に、イラストや写真で綴る名場面集の章の構想や、先生や施設職員とのコミュニケーションや打ち合わせに関する章も必要かも、と話し合って、今日の濃密なミーティングが終わる。

 

どんなハンドブックになるか、楽しみ。それにしても、鈴木潤さんというミュージシャンと、こんな作業をするなんて、意外で新鮮で本当に面白い。ぼくら二人のクラシックやオーケストラの門外漢が、日本センチュリー交響楽団と、ワークショップハンドブックを作成するなんて、不思議だなぁ。

 

 

 

原稿執筆と新年会

「帰ってきた千住の1010人」の作曲が終わったので、日本センチュリー交響楽団との音楽ワークショップのためのハンドブックの原稿執筆に着手。鈴木潤さんからは、大量に原稿が送られてきたが、ぼくは今日、一気に書く。

 

例えば、無調の話を書いた。楽譜のある音楽の場合、無調の音楽は、シャープやフラットがいっぱいつくので、初心者が無調の音楽を演奏することは、まずあり得ない。ところが、楽譜を使わずに、自由に即興で演奏して下さい、と言う場合、例えば、ピアノを習ったことがない3歳児がピアノを弾く場合、自然に無調になる。つまり、初心者こそ無調になる。だから、楽譜がない音楽では、まず無調からスタートというのは、自然な発想だったりする、などなど、いろいろな原稿を書いた。

 

里村さんの紹介で、文楽の番組などを作ったNHKのチーフ・ディレクターの上野さんのお宅の新年会を訪れる。初対面の方々がいっぱいだったが、ギタリストの渥美さんが突然、文楽の「寿式三番叟」をギターで弾き始めたので、ピアノでセッション。郡上八幡からやってきた盆踊りの達人が、「はるこま」や「かわさき」を歌い踊るので、ピアノでセッション。民謡をリサーチして熱唱するシンガーが、大分民謡を歌うので、一緒に弾いて欲しいというので、ピアノで熱く伴奏。最後は、ダンスミュージックになって、新内三味線の歌手も加わり、フルーティストも登場の大セッション。美味しいお雑煮と、数々の交流あり、久しぶりに再会する方々もいて、新年の宴はめでたかった。そして、邦楽や民謡に関心のある音楽家の方々に何人も遭遇しセッションしたのも、良い出会いだった。

 

帰って、また、原稿を執筆。ふーぅ。